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短編集14(過去作品)

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 スナックは何軒か知っている秀樹だったが、ショットバーは初めてである。カウンターの奥には男性が二人、女性が二人、いわゆるバーテンダーと言われる人たちだろう。一人がシェイクを手に持って慣れた手つきで振っている。初めて目の当たりにした光景に、秀樹は初めて見るバーの雰囲気をしばし楽しんでいたのだ。
「洒落た店を知っているんだね」
 少し経って秀樹が話しかける。
「ええ、ここは女性一人でも気軽に来れるお店なの。お仕事に疲れた時など、時々来てますわ」
 そういえば、まわりを見るとカウンターに腰掛けている女性客がいるが一人でカクテルを飲んでいる。当然馴染みの客なのだろうが、まだ時間帯が早いせいか、他に客はほとんどいなかった。
 泰代も一人になりたい時間があるのだということをこの店に来て、一人で飲んでいる女性を見ることで初めて理解できた気がした。時々バーテンダーに話しかけたりして楽しそうに見えるのだが、そんな女性がグラスを口に運んでいる時に見せる雰囲気はどうしても寂しげだ。
 思わずまわりを見回してしまう秀樹だったが、そんな様子をついぞ知らずといったように泰代が口を挟むことはなかった。ウエイターが肩膝ついて横に注文を取りにくるが、それも新鮮に感じられた。他のバーもそうなのかはわからないが、これがこの店の魅力でもあるのだろう。
「私はあまり強くないので」
 秀樹がいうと、横で泰代がウエイターに目配せする。きっと秀樹のことを気遣ってアイコンタクトを取っているのだろう。いつも従順で少なくとも二人きりの時は自分が優位に立っていると思っている秀樹には新鮮に見える光景だった。
 今日、ここに連れてきてくれるということは、それだけ秀樹を恋人として本当の意味で認めているからだろう。喋り方もいつものお嬢様っぽさというより、少しくだけた感じがある。お嬢様の革が一枚剥けると、そこには妖艶な女性が一人、秀樹は少し戸惑っていた。
 今までに女性と付き合うことに、これほどの戸惑いを感じたことはない。確かに最初は他人行儀な言葉を使っていても、途中から皆どこかで親しい言葉遣いになる。だが、その瞬間というのは秀樹には何となく分かっていた。感覚で分かるというべきか。泰代に限ってはなぜかいきなりであった。しいて言えば、この店に連れてきてくれる気になったからなのだろう。
 今までの女性で、言葉遣いが変わる時が分かるというのは、きっと秀樹が好きになる女性のパターンというのがいつも同じだからだろう。いつも別れる時は、相手からいやになって別れることが多いだけに、
――今度好きになる人は違うタイプの女性にしよう――
 と考える。それも仕方ないことだろう。だが、考えてはいても結局同じタイプを好きになるということは、このこと一つとってもいえるのである。
 さすがに付き合いはじめて相手を好きになって同じタイプだということに気付いたとしても、その時には好きになってしまった気持ちを抑えることができず、
――今度こそ――
 という思いこそすれ、後悔はない。闘争心のようなものがあるからなのか、それとも本能に逆らえないと思っているからなのか、自分でも分かっていない。結局、いつも同じようなパターンで失恋することになるのだが、懲りない性格として自笑するしかなかった。
 友達に相談しても、
「お前は懲りないやつだなぁ。まぁ、それがお前のいいところなのかも知れないがな。俺は結構お前のそういう性格好きだぜ」
 と、慰めになっていないような慰めを聞いて苦笑いをしている。きっと男には好かれるタイプの三枚目なのかも知れない。
「お前女に好かれたことがないだろう?」
「ああ、そうだな、ほとんど自分から好きになる方だからな。というか男にはなぜか好かれるんだよ」
「ははは、でもそれはきっと自分というものが分かっていないからじゃないか?」
「それはどういうことだい?」
「いや、誰かから密かに思われていても気付かないということさ。自分が女性から好かれるなんて、考えたこともないだろう?」
「そういえばそうだな。付き合いはじめてもいつも最後は嫌われるからな」
「お人好しなんだな。きっと、それは自分のことを考えようとしないからだよ。少なくとも女性に関しては、自分の悪いところだけしか見えていないだろう?」
「そうなんだ。まぁ、これだけ振られ続けると、そんな風にもなるわなぁ」
 今まで自分から告白しても、最初はそれほど積極的な態度に出るわけではない。純愛路線というべきか、相手が付き合ってくれる意志を示せば安心してしまって、あまり積極的になることをしない。それが相手にも安心感を与えるのか、最初は仲睦ましいカップルなのだ。そしてそのうちムードが高まってくると唇を重ね、そしてそのまま、身体を重ねることとなるのだが、同じような性格の女性が多いので、パターンは分かっている。それだけに仲良くなるまでは、実にうまくいっているにもかかわらず、なぜか身体を重ねて少し経つと、女性の方から別れ話をしてくるのだ。
 友達には、その話を克明に話している。いつも同じパターンなので、聞いている方も大体分かってくるのか、同じところで相槌を打ってくれ、話が架橋に入ってくると、秀樹を見つめる友達の顔に、余裕のようなものがあるのを秀樹は気づいていない。きっと友達には秀樹の性格が丸わかりなのだろう。
「本当に分かりやすい性格だ」
 という言葉が喉まで出掛かっているに違いない。
 しかし、秀樹自身も最近、自分のことが少し分かってきたような気がしている。
「こんな僕を好きになってくれる女性なんているのかな?」
「そりゃいるさ。物好きな女性なんていっぱいいるからな」
 そういってニコニコ笑う友達の顔を見て、同じように笑い返す秀樹だったが、そこには苦笑いはない。真剣に聞いているからだろう。
 秀樹は女性に関して以外の、自分の生き方に自信を持ち始めていた。仕事も好きなことをしているせいか一生懸命に取り組んでいて、毎日が充実している。そんな姿を見る上司の目も温かであることはよく分かっていた。好きなことを一生懸命にできて、上司からも暖かい目で見られれば、それだけで自ずと自信が湧いてくるというものである。そんな時だった、泰代と知り合ったのは。
 自分に自信を持つということがどれほど自分の隠れたパワーを引き出してくれるかということを今さらながらに知った秀樹である。どちらかというと今までは自分に自信がなく、自信を持つということがどういうことか分からないでいた。人に言われてもそれはおだてだとしてしか見ていなく、慎重だといえばそれまでなのだが、つい疑ってみたくなるのだ。
作品名:短編集14(過去作品) 作家名:森本晃次