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短編集14(過去作品)

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 私は人にやきもちを妬かせることが何度かあった。それは「もう一人」の自分がすることであって、今考えている自分は、認識はしているがまるで他人事である。
 そんな自分が嫌になることがあった。だが、やきもちを妬いてくれることに快感を覚え、それが彼女の愛情だと思い込むようにしていた。実にずるい人間である。
 彼女の側でそのことは分かっていたであろう。かなり露骨なこともあったので、気付かないわけはない。しかし彼女は甘んじてそれを許してくれている。しかも気付かないふりをして私には何も言わずにである。
 彼女が本当に私を愛してくれているかをそんな形でしか確かめることができないでいた私は、本当に勇気のないやつなのだ。
 鬱状態に陥る時、その原因が分からないことがほとんどだったが、今回に関してはしっかりとした理由があった。しかし理由があることだけに、しっかり自分を見つめなおすことができたことで、今まで見えていなかったいろいろな部分が見え始めたのも事実だ。
――見たくないことまで見えてくる――
 これは非常に辛いことである。きっともう一人の自分が鬱状態の中でフルに頭の回転を生かせるのだろう。素晴らしい発想をしては、私に納得させようとしている。
 こんな時の「もう一人の自分」が何と忌々しいことか……。
「あなたの純情なところが好きなのかしら」
 以前、私のどこが好きかということを順子に聞いたことがあった。一度だけではなく、何度もである。しかし答えてくれたのは、これ一回。しかもぼかしたような言い方だったことに私は気付かなかったため、そのまま受け取っていた。確かに彼女の言葉に嘘はなかっただろう。しかし「長所と短所」は紙一重という言葉があるが、彼女の言葉のすぐ裏に私の一番嫌いな部分があることに気付かなかった。それを教えてくれたのは、「もう一人の私」であった。
「彼女には今でも忘れられない男がいる。そこが彼女のかわいそうなところだ」
 もう一人の私が、心の中で叫んでいる。
「付き合えば付き合うほど相手が最悪になっていくの」
 という彼女の言葉、相手が最悪になるのではなく、彼女自身が男を最悪にしか見れなくなるのかも知れない。彼女自身の態度が露骨に男を避ける素振りを見せ始めるような気がしてくるのは、もう一人の私が現れたおかげだ。
 最初の頃の彼女は、弱々しさがあった。自分に自信がないのか、言葉が少なめだったのも頷ける。しかししばらくすると気を許してくれたのか、どんどん会話が繋がるようになる。それが私にはとても嬉しかった。
――身体の関係にならなくても、この関係でいい――
 とまで思ったのは、私にだけ心を開いてくれているように思えたからだ。
「彼女には勇気がないんだ」
 もう一人の私が囁きかけてくる。
「どういうことなんだ?」
「人を嫌いになる勇気がないんだね。だから、次々好きになっていく男が最悪になっていくんだ」
 意味が分からない。自分が言っていることなのに……。もう一人の私といっても、私には違いない。時々ではあるが、表に出てきて私自身を表現している。それも自分として認識してである。
「人を嫌いになる勇気のない女に男を好きになる資格なんてないんだ」
 そう言っているようにも聞こえる。完全に嫌いになれないから、その人のことを引っ張る。相手にとっても自分にとっても中途半端、そんな状態で男はどう感じるであろうか?
 女がオンナに見えてくる。「魔性のオンナ」に見えてくるのだ。男が真面目であればあるほど、辛くなる。しかも最初にその気になるのは女性の方であって、男はその気にさせられた方なのだ。
 まるで、はしごのないところに登らされて、最後にはしごを外されて置き去りにされてしまったような感じなのだ。
 今、私はそのことに気付いている。
「あなたは女性というものを知らないのよ」
 彼女の言葉を思い出す。確かにそうなのだ、彼女のことすらよく分からなかった私は、鈍感なのだろう。
――うっ、やばい、来るぞ――
 前兆は確かにあった。
 ふくらはぎに違和感を感じる。明らかにこむら返りの兆候だ。
「うわ〜」
 声にならない声を自分だけが聞いている。まわりの誰も気付かない。いや気付いてほしくない。下手にまわりの人に気付かれて騒ぎ立てられると却って苦しさが倍増する。
 一瞬呼吸もできなくなった。ふくらはぎがとても熱い。
――誰も触るな――
 心の中で叫ぶ。
 しかし頭の中で固くなり熱を持っているふくらはぎが想像できる。揉めば楽になるというが、この状況で揉むことができるほど落ち着いてはいない。
「うっ」
 誰かに触られている気がする。痛さから瞑ってしまった目を開けると、そこにはニヤニヤしながら私の足を揉んでいるもう一人の自分がいる。
――身体に複数の変調が起こる時というのは、もう一人の自分に起こっている変調なのかも知れない――
 もう一人の自分は私の知らないことをいっぱい知っているのだ。しかし逆に考えれば、私の知っていることはほとんど知らないのだろう。それだけに時々私の前に現れる。ただ、それを私が分からないだけ……。
――私はもう一人の自分の存在を知ってしまったのだ――
 ひょっとしたら、これから起こるであろう順子との悲劇を、もう一人の私が救ってくれるかも知れない。
 いや、これからも私の中にいて、ずっと助けてくれることだろう……。

 私は夢を見ていたのだろうか?
 自分の部屋で目が覚めたのだ。
 彼女の感触がまだ残っているにもかかわらず、枕元の携帯電話が鳴る。
 半分眠った記憶でリダイアルボタンを押している自分にハッとしたが、
「お掛けになった電話番号は、現在使われておりません……」
 気がつけば、「ツーツー」という音が耳の奥に残っているだけだった……。
 それを聞いている私は、一体どちらの私なのだろう?


                (  完  )

作品名:短編集14(過去作品) 作家名:森本晃次