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背徳行為

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林檎をがぶりとかじる。
汁がぼたぼたと垂れる。

それはなんだが神への背徳行為のように思えてならない。

少なくとも私は。



会社をトンカチで叩き潰す夢をみた。

そういえば高校生のころも、学校をホースで水没させる夢をみたきがする。

私はとことん集団というものが嫌いなのだな、と思う。

馬鹿らしい暗黙のルールやら、コエタカラカに唄われる空っぽのルールやら全てが。



…そんなとき、私は決まって孝二を思い出す。…でも今じゃもうぼんやりとした影しか浮かばない。

多分とっくに胸から脳から消えている。


…それなのに、しつこくいつまでもいつまでも彼の幻影が現れるのだ。



きっと死ぬまで影が歩き続けるのだろう。


このうすっぺらな胸の内で。





孝二はごく普通の男だった。

犬よりも猫を愛し、猫よりも鳥を愛し、それなのに鳥よりも犬を愛すような人。

…ようは矛盾だらけの男だった。



そして、彼は誰にでも優しい男だった。

美しく、聡明で、孤独な男…。



私はいつも彼の孤独を見るのが好きだった。

彼は時々ぽつんと呟いた。


…それは大抵虚しい行為に及んだ後のこと。




「神は人間がつくったものだとしたら…この世にある会社も、学校も、人間たちだって神様だよな。…俺は」



世界中に背徳しているな、と。







林檎の芯だけ残ってしまった。

私は悲しくて涙を垂らした。
作品名:背徳行為 作家名:川口暁