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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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春はまだ先 探偵奇談14

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弓道部主将の神末伊吹(こうずえいぶき)は、部誌を提出しに職員室を目指していた。廊下は凍り付くように寒い。暗い夜の外はまだちらちらと雪が舞っている。年末からの寒波の影響で雪がだらだらと降り続き、ここのところ部活は早めに切り上げるよう各部活動に通達されている。

(課題が多くて追いつかないな)

後輩の指導、春に向けてのチーム編成、やることは山積みだ。三年生が抜けてそろそろ半年。個々のレベルもあがり、部活としてはなんとかまとまり始めている。しかし、問題も多い。特に一年生のレベルアップは、春に向けて必須課題である。

(ぼちぼちやるしかないか。冬合宿で、個々の課題も見えただろうし…)

ふうと一息ついて顧問のもとへ向かう。部誌を提出し退出しようとしたところを、呼び止められる。

「急だけどな、来週練習試合に参加しようと思うんだが、どうだ」
「来週ですか?」

えらい急だな、と伊吹は驚く。弓道部はもちろん冬もフル活動で試合の日程も組んであったが、来週とは突然の申し出だ。

「七尾第一高校の弓道部が、県の運動公園の弓道場を借りて一日稽古をやる予定だったんだが、せっかくだから県内の弓道部を集めて交流戦でもしないかって。ウチも参加してみないか?一年にはいい経験になると思う。急な話で参加する高校は少ないそうだから、全員を試合に出してやれるし。冬合宿の手ごたえを感じてもらいたいしな」

七尾第一高校。聞き覚えのある高校の名前が出てきて、伊吹は一瞬固まってしまう。

「……」
「ん?どうした、神末」
「え、はい。いいと思います。是非」
「神末はずっと、混合チームで一年も試合に出したいって言ってたろ。こっちで編成してみるから、おまえも意見をくれるか」
「承知しました」

失礼します、とその場を離れてから、口の中に何とも言えない苦い物がせり上がってきた。

(…いい機会だ。春の大会に向けていい経験になるし。でも七尾第一って…)

ぼんやり歩いていたらしく、後ろから肩を叩かれてギクリとしてしまった。瑞だった。

「先輩?」
「…びっくりした。なんだ、おまえ帰らないのか?」
「俺、宿題の再提出しにセンセんとこ行くんです」
「そっか。また明日」

気を付けて帰れよ、と笑顔で言いながらも、伊吹はモヤモヤとしたものを払拭できない自分を自覚していた。



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