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リードオフ・ガール

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4 最終回



 試合後のミーティング、選手達は一様に悔しさをにじませ、泣きべそをかきそうな子もいるが、監督の光弘は晴れ晴れとした顔をしていた。
「お疲れ様、俺は君たちを誇りに思うよ」
 選手達はそれを聞いて顔を上げる。
「ウチには大きな身体のパワーヒッターもいなければ、剛速球を投げるピッチャーもいない、それでも地域の大会を勝ち抜いて県大会のベスト4にまで勝ち上がったんだ、今日だって勝敗は紙一重だ、決してウチが劣っていたとは思わない、君たちは俺が指導してきた中で最高のチームだよ、わかるか? 最高の『チーム』なんだ、それぞれが自分の役割をきっちり果たしただけじゃない、それぞれが良い所も弱いところも持っている、良いところを生かしてチームメイトを補い、弱い所は補ってもらう、1+1が3にも4にもなる、それがチームワークだ、その意味で君たちは最高のチームだったよ」
 選手達は真剣なまなざしで光弘の話に耳を傾ける。
「ピッチャー・正臣、良く投げ抜いてくれたな、バックを信頼して打たせて取るピッチングは見事だったよ……キャッチャー・敦、みんなのまとめ役をしっかり果たしてくれたな、お前が要にいることでチームがかっちりとまとまったよ、ファースト・勝巳……皆がお前に廻せば何とかしてくれると信じて、お前もその期待に良く応えてくれた……セカンド・勝巳、お前は守備の潤滑油の役割を果たしてくれた、お前が走り回ったおかげでそれぞれの個性が生きたんだ……サード・慎也、鉄壁の守りだったよ、お前ががっちり守ってくれたから正臣も緩いボールを安心して使えたんだ……ショート・隆、お前の守りも鉄壁だった、勝征と同じように走り回ってもくれたよな……レフト・達也、ライト・幸彦、良く守ってくれたし、打つ方でもお前達が後ろに控えているから勝巳も伸び伸びと打てたし、相手ピッチャーたちも迂闊に勝巳を歩かせられなかったんだ」
 選手達の顔に明るさが戻って来た。
「そしてセンター・由紀、哲也がケガした時はどうしようかと思ったんだ、今も話したように、サンダースは全員で一つのチーム、哲也が抜けたからと言ってポジションも打順も変えたくなかったんだ、ピッタリとかみ合ったジグソーパズルみたいなものだからな、だけどお前は哲也の代役なんかじゃない、お前が塁に出てかき回してくれたから、後のみんなが自分の役割をきっちりと認識できた、お前をホームに還す、それがみんなの目標になったんだ、守りでも良くやってくれた、何度『やられた』と思った打球を掴んでくれたかわからないよ……お前は哲也と同じ形のピースじゃない、でも、みんなが由紀と言う新しいピースに形を合わせて行くことで、サンダースと言うパズルは一回り大きくなった気がするよ、……英樹と慎司も出番はあまり与えてやれなかったが、ベンチにいるときもずっと試合に参加していたから、急な出番でもしっかりとチームの一員として活躍できたんだ、立派だったぞ」
 光弘はそこまで話すと、選手達に深々と頭を下げた。
「6年生の大会はここまでだ、サンダースに在籍したことがみんなの成長の糧になったとしたらこんなに嬉しい事はない、お前達の人生はお前達のものだ、見聞を広めて、色々な部活も良く見て、本当にやりたいこと、ずっと続けられる事を見つけて欲しいと思う……もっとも、それが野球だったら嬉しいけどな」
 6年生たちはしっかりと頷いた。
「で、5年生たちは来年に向かって再出発だ、まだレギュラーとかは何も決めていないが、キャプテンは英樹に務めてもらおうと思う」
「え?」
「監督」
 由紀と慎司は目を丸くした、英樹は受験なんじゃ……。
 その驚きを他所に、英樹は立ち上がって言った。
「ちょっと頼りないかも知れないけど、みんなをまとめられるように頑張るつもりなんで、よろしく」
 由紀が驚きで声を出せずにいると、慎司が先に口を開いた。
「お前、中学受験するんじゃなかったのかよ」
 英樹はちょっと照れくさそうにその問いかけに答えた。
「そのつもりだったんだけどさ、やめた」
「はぁ?」
「将来どうしても行きたい大学があってさ、その付属中学狙ってたんだけど、模試の結果とか見ると正直な所あんまり見込みなかったんだ、そんな時に監督からキャプテンやらないかって言われて、やりたいって思った、親にそれを話したら『それはきっとお前のためにもなるからやりなさい、志望校は高校受験からでも大学受験からでも大丈夫だけど、キャプテンを務めるチャンスはいつでもやって来るものじゃないんだから』って言ってくれたんだ」
「なんだよ、そう決めてたんなら早く言ってくれよ」
「そうよ、あたしなんか、栗山君が守備についたとき、なんかジンと来ちゃったんだから」
 慎司と由紀はちょっとふくれっつらだ。
「まあ、そう言わないでくれよ、キャプテンの話、大会後にみんなにするからって監督に言われてたからさ……悪いな」
 英樹は頭をかくが、光弘はちょっとニヤニヤ顔だ。
「へぇ、由紀は英樹のことを気にかけてたのか」
「別に……そういう意味じゃ……」
「グラウンドに出れば男の子も女の子もないけどさ、由紀は女の子なんだから無理に男の子のようになろうとしなくて良いぞ、男の子と女の子、世の中をチームとして考えたら補い合う関係でないとな」
「あ……はい……」
「夏の大会はこれで終わり練習はしばらくお休みだ、俺も溜まった仕事を片付けないといけないしな、みんなも残りの夏休みを楽しんでくれ、新学期からまた練習だぞ!」

 光弘のその一言で、ひとまず『今年のサンダース』は解散した、ニ学期からは『新しいサンダース』が始まるのだ。

D (>◇< ) アウト! _( -“-)_セーフ!  (;-_-)v o(^-^ ) ヨヨイノヨイ!!

「なんだよ、由紀、スカートなんかはいちゃって」
 新学期、廊下でバッタリと出くわした英樹が言う。
「なんだよって何よ、女の子がスカートはいてちゃおかしい?」
「あ、いや、見慣れないもんだから……でも、似合ってるよ」
「え?……ありがと……でも、ほめてくれたってポジションは譲らないわよ」
「それは俺も同じさ、新生サンダースのリードオフ・マンは俺が頂くからな」
「負けないわよ、でもね……」
「なんだ?」
「あたしの場合は『リードオフ・マン』じゃないの、『リードオフ・ガール』よ」
 そう言い残して由紀は手を振って駆け出した。
 夏の熱気と秋の爽やかさが入り混じった、今の季節の風のように……。
 
 
 (終)
作品名:リードオフ・ガール 作家名:ST