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トイレの水を流したら…

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第一話 初めてのタイムスリップ

酒井舞由李(さかいまゆり)。17歳。身長170cm、体重75キロ。ピチピチの女子高生。

ある日曜日、酒井はポテチを買いに地元のコンビニへ行きました。
ところがその帰り道、突然トイレに行きたくなってしまいました。
家まで我慢できなかった酒井は、たまたま通りがかった家に押しかけていき、トイレを貸してくださいと頼みました。
すると偶然にも、その家は中学時代の担任教師、堀川権蔵ほりかわごんぞう)の家でした。

「おーい酒井!まだトイレから出てこないのかー!」

中々出てこない酒井にしびれを切らし、堀川はドンドンとトイレの戸を叩きまくりました。

「おーい!早く出てくれよー!俺もトイレ行きたいんだよー!」

堀川はつるっぱげの頭に玉のような汗を滲ませ、大声で叫びました。

「うるせーな。少しは我慢しろよ、ハゲ」

人の家のトイレを借りておきながら、酒井は実に偉そうでした。
しかし堀川はそれでもドアをドンドン叩き続けました。

「酒井ー!早くしてくれー!早くしないと漏れるよー!」

「そんなにしたいなら外でしてくれば?」

「そんな汚いことできるわけないだろー!」

「男のくせに何言ってんの!男なら堂々と外でするだろ、普通」

「わ…わかったよ〜」

堀川は外へ出て行きました。

「あ〜スッキリした」

酒井はホッと一息つき、トイレの水を流しました。

ジャー。

酒井はトイレの水が流れていくのを見るのが好きなので、ここでも真剣にそれを眺めていました。

と、その時でした。

突然酒井は、流れていくトイレの水に物凄い力で引きつけられたのです。

「うわ〜!なんだこりゃー!」

酒井はそのまま便器の中に吸い込まれてしまいました。


どれくらい時間が経ったのでしょう。
気がつくと、酒井はトイレの便座に座っていました。
ちなみに、ズボンはちゃんと穿いたままです。
しかし、そのトイレは堀川の家のものではないようです。

酒井は扉を開け、外に出てみました。
そして、目の前の光景に、あっと息をのみました。
なんと、そこは公園だったのです。

酒井は驚いてトイレの扉を振り返りました。
すると、どうやらそれは公衆トイレのようでした。

「えっ?なんで?なんで?」

酒井はまったくわけがわかりません。
周りを見渡してみましたが、まったく見覚えのない風景です。

「ここは一体どこだろう?」

酒井がきょろきょろしていると、突然後ろから走ってきた誰かがぶつかってきました。

「痛って〜。なにすんだよ…」と、酒井は怒りながら振り返りました。

すると、坊主頭の小さな男の子がいました。

「ボケっと突っ立ってるから悪いんだろ、オバサン!」と言い返されてしまいました。

「ねぇ、あんた誰?」

いきなり酒井は男の子に聞きました。この少年の顔に、どこか見覚えがあったのです。

「僕、ゴンちゃん」と男の子は答えました。そして、

「あんたこそ、誰?」と聞いてきました。

「私は酒井舞由李。舞由ちゃんでいいよ」

「誰が呼ぶかよ!」

「まっ、生意気〜!」

「生意気はそっちだ!」

「うるさい!このガキ!」

「うるせぇ、ババァ!」

ゴンちゃんと名乗る少年は、そのままどこかへ走り去って行きました。

ふいに、酒井はあることに気付きました。

「そうか!誰かに似てると思ったら、堀川に似てるんだ!しかもあいつ、ゴンちゃんって言ってたし…。えっ…?まさか私――」

酒井は公園の真ん中で驚きの雄たけびを上げました。

無理もありません。40年前にタイムスリップしてしまったのかもしれないのですから。

第二話 酒井、ゴンちゃんを助ける


酒井は40年前の町並みを歩いて散歩していました。

「あ〜あ…つまんな〜い。40年前ってつまんないものばっかり。どっかにゲーセンないかな〜」

と、独り言を言っていると、30メートルほど前方に、先ほど会ったゴンちゃんを見つけました。

「ゴンちゃーん!」と声を掛けましたが、無視されてしまいました。

「おい!堀川権蔵!」と、フルネームで呼び直してみましたが、やはり無視されました。

ゴンちゃんはそのままどこかへ走って行ってしまいました。
酒井はこっそりと彼の後を追いかけていきました。
いきなり飛び出して行って、驚かしてやろうと思っていたのです。

あとをつけてから、2,3分が経過しました。

すると突然、ゴンちゃんの目の前に数人の男子中学生達が現れました。
どうやらゴンちゃんは、その中学生達にからまれているようです。
酒井はしばらくその様子を隠れてじっと見ていました。

「おい、権蔵!お前、金持ってんだろ!貸せよ!」

中学生の一人が脅すように言いました。
ゴンちゃんはビクビクしながら言い返しました。

「や…やだよ〜。ボクんだもん!」

「な〜にが“ボクんだもん”だ!生意気なんだよ!ハゲ!お前野球部にでも入ってんのかよ?」

「違うやい!ボクが入ってるのはサッカー少年団だもん!」とゴンちゃんは得意げに言いました。

「は?意味わかんねー!」と不良中学生は言いました。

「野球部でもないくせになんで坊主頭なんだよ!」

「知らないよ!」

「は?自分でもわかんないのかよ?つーかさっさと金出せよ!」

「ヤダ!」

「何だと?おい、みんな、コイツに思い知らせてやれ!」

中学生達はゴンちゃんをリンチし始めました。

「いたいよ〜!やめてよ〜!」

酒井は影でそれを見ながら、密かに「堀川ダッセ〜」と思いましたが、あまりにもゴンちゃんがみじめなので、仕方なく助けてやることにしました。

「うえ〜ん!うえ〜ん!」

ゴンちゃんは泣きだしました。

「泣いて許してもらえると思ってんのか!ふざけんな!金出すまでいじめてやるからな!」

「うえ〜ん!うえ〜ん!ママ〜!」

「ちょっと、ちょっと!あんた達!」

酒井は仲裁に入りました。
中学生達はギロリと酒井を睨んできました。

「なんだ?オバハンもリンチされてぇのか?」

「“オバハン”とは生意気な!このクソガキ!」

酒井は腹を立て、中学生達を一人一人蹴り倒していきました。
そして、ようやくゴンちゃんを救いだすことができました。

「なんだよ、お前なんでここにいるんだよ?」

ゴンちゃんは不思議そうに酒井を見つめています。

「なんでって、そりゃ…ずっとあんたを尾行してたから」

ゴンちゃんは些かドン引いているようでした。

「そうそう」と、酒井は得意げに言いました。

「あんたの本名、堀川権蔵っていうでしょ」

「えっ?」とゴンちゃんはかなり驚いているようです。

「なんで知ってるの?」

酒井はふふんと鼻を鳴らし、「ヒ・ミ・ツ」とウインクしました。
ゴンちゃんはまたまたドン引いているようでした。

「あ、そうそう」と、酒井は再び話し始めました。

「私、今日泊まる家がないんだよね。あんたの家に泊めてくれない?」

「は?!なんで泊まる家がないんだよ?」

「事情話してもいいけど、頭の悪そうなあんたには理解できないと思うよ」

「じゃあ、言ってみろよ」

「あんた、タイムスリップって知ってる?」

「なにそれ?」