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集合は変わる

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そういうことが起きるとは思ってなかった。


一昨日から今日までの3日間、とある会社で単純作業バイトをした。会社側が駅から送迎の車を出してくれるため、駅まで電車で向かわなくてはならなかったのだが、今日は電車に乗り遅れてしまった。
駅に着くと、ほんの少し遅れて送迎の車が来た。
無論、謝罪をした。
しかし、なぜか知らないが、最初から送迎利用者のリストに俺の名前は無いらしかった。俺も会社の人も、何かあったんだろう的なテキトーな感じで済ませた。

俺は、単純作業の時に単純な思考回路を組み立てたくはない。むしろ複雑、煩雑、雑然とした回路網を脳内に巡らせ、身体が行う単調な作業による価値を見出せない状態を中和する。
今日も例外ではなかった。今日は、
「集合と、内部または外部の相関性」について、およそ8時間思考した。まあ、それだけ時間があるゆえに別のことも考えたり思いついたりしたのだが…。
ちなみに、今日のテーマについて主に数学的に考えていたと思うが、俺は別に数学という道具だけに限って考えたかったわけではなかった。また、物理的に考えることもあったが、俺は現在の物理が必ず正しいなどとは思っていない都合で、それのみに依存することもなかった。
ただ単純に、起こった現象を見て解析し、浮かんだ想像を解釈していた。
ただ、やはり身体を使ってやっていることは単純作業なので、仕事自体は飽きてきた。
ところが、「集合と、内部または外部の相関性」について考えることは、飽きるどころか逆に面白くなっていった。
そうやって考えることが面白くなってくると、大概作業でミスった。ありがたくも社員の方は、怒ることをしなかった。そういうのが続いていた。

突然、作業中に呼び出された。派遣先に電話してください、と。

嫌な予感がした。やはり、遅刻のことについて責め立てられるのだろう、そんなことがすぐ頭をよぎった。
しかし全然違った。

現場を間違えていたのだ……

確かに今日の現場名は違っていた。しかし俺はその会社は一昨日と昨日の会社の内部にある、いわば子会社であり、同じ現場に決まってるッと信じきっていた。3日連続だと思っていたから同じ現場だろうと思っていたし、派遣先の人と連絡をしたときもそういうことでお願いしたはずだった。

この瞬間、俺の脳内にあったイメージが変わった。
今日の本来行くべきだった現場は、それ以前は一昨日、昨日の会社に「含まれていた」。
しかしこの瞬間、突然今日の現場はその会社と分裂、互いに排反となった。
まるで、透明のケースに入っていた石が、突然視点を変えられたことで実は入っていないことを知ったようだ。または、透明の水槽に入っていた魚が、突然視点を変えられたことで実は水槽の中を泳いでおらず、その裏側の空中を泳いでいたことを知ったようだ。
✳︎後者の比喩は、俺が魚を飼っていることに依存する。

集合の包含関係は複雑なのだ。
自分自身が含んでいる要素は実は含んでいない可能性があり、自分自身が含んでいない要素は実は含んでいることもあるのだ。そう思った。
作品名:集合は変わる 作家名:島尾