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季節ものショートショート

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夏の記憶


 夏は嫌いだ。



「ねえ、こっちにおいでよ」
 空からいっぱいの光が降り注ぐ中で、白いワンピースを着た女の子が、頭にのせたぶかぶかの麦わら帽子を押さえ、黒くて長い髪をきらめかせながら、誰かを呼んでいる。
 誰かな、と周りを見てみても誰もいない。
 僕がもたれかかっているような、僕に比べてとても大きい木が何本も、距離を開けて並んでいるだけだ。
 後で怒られるのはわかっていたけど、つい持ってきてしまった本をひざの上において、顔を女の子ほうに向けた。
 そして、勇気を振り絞り、おそるおそる口を開く。
「もしかして、僕に言ってるの?」
 女の子はびっくりしたのか、目をパッチリと開いた。
 その様子を見て僕は、
 ……ああ、やっぱり僕じゃなかったんだな。
 と、落胆すると、そこから離れるため、本に栞を挟んで、閉じる。
 立ち上がろうと、芝生でおおわれた地面に手をついたところで、木の影の上から、別の小さな影が重なっていることに気がついた。
 ふっと見上げると、そこにはさっきの女の子が微笑んでいた。
 なにかしゃべろうと、一生懸命に口と、頭を動かそうとするけど、どっちも動いてくれない。
 そうしているうちに、女の子が口を開いた。
「そうよ。あなたに言ってるの。いっしょにあそびましょ?」
 その言葉を聞いて、僕の中に、いろいろと言いたいことや、聞きたいことができたけど、僕は、うなずくことしかできなかった。
 そんな僕に、女の子は手を差し伸べる。
 僕は、持っていた本を、汚れないよう気をつけながらその場に置くと、自由になったその腕で、女の子の腕をしっかりと握った。
 それから僕らは、時間がたつのもわすれてあそんだ。
 本を読んだり、あちこち歩き回ったり、草冠を作ったりもした。
 空が真っ赤になるころ、次の日もあそぶことを約束して、僕は部屋に戻った。