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てっしゅう
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「月ヶ瀬」 第四話

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事件は平成9年5月4日に起こった。
奈良県添上郡月ヶ瀬村(現奈良市月ヶ瀬)で学校帰りの中学二年生久保実智子が行方不明になった。
村人の必死の捜索にも発見できず、ついに奈良県警は大掛かりな捜査を開始した。
そして一月後に村はずれの街道沿いにある水子地蔵の傍に埋められていた行方不明者を発見した。

犯人目撃証言が無いまま、行き詰まった捜査に同村によそ者として扱われている岡崎一家の長男、岡崎誠治に重要参考人として任意同行を求め、執拗な尋問の末自供を引き出した。
決め手になったのは、村長が以前に自分を脅すような行為があったことを捜査中に伝え聞いたことからだった。

被害者の久保実智子は当時の村長久保清一の孫娘であった。
誠治には被害者が行方不明になった時刻にアリバイが無かった。
そのことも警察では逮捕の決め手としていたようだった。

平成12年6月、大阪高裁は奈良地裁の一審判決を破棄し、無期懲役を言い渡した。
弁護士の再三の上告要求に反し、岡崎誠治は上告を取り下げた。そして、刑が確定した。
翌平成13年9月4日午後8時、収監されている金沢刑務所独居房にて首つり自殺をしている岡崎誠治が発見された。
遺書はなく、着ていたランニングシャツを鉄格子に吊るし、首に巻き付けての自殺行為だった。

誠治は公判中一切犯行に及んだ理由を強姦目的だったとしか言わなかった。
検察からも強姦殺人、死体遺棄で告訴されていた。

「おとなしくしてたら叩いたりせえへんと言ったのに、あんたにされるぐらいやったら死んだ方がましやって言いよりましてん。13歳で生意気なこと言いやがるって血が頭に昇って、黙らそうと思って首絞めたらぐったりしよったんで、事に及んだ。堪忍してって言いよるんやったら、事が終わったらそのまま帰したんや。終わっても動きよらへんから、死んだと思ってこのままやったら見つかると地蔵の裏に埋めた」

そう証言していた。

このとき実智子はまだ息があったようだと、取り調べの警官に言われ少し動揺した様子を見せたが、「死んでたのは間違いない」と吐き捨てるように言った。

和田弁護士は一通り依頼人の安田夫婦から聞き取りを終えると、山崎にすぐに帰って調査の準備をしたいと帰り支度をしていた。

「お義兄さん、初江さんが話してくれた久保清一元村長が本当に母親と関係したとしたら、何か弱みがあったと考えられるのですが、どう思いますか?」
作品名:「月ヶ瀬」 第四話 作家名:てっしゅう