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半分夢幻の副作用

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                   ◇

 高校時代の梨乃は、勉強に明け暮れるようになり、読書の楽しみを忘れていた。
 なぜ、いきなり勉強に勤しむようになったのかというと、父親が単身赴任で、家からいなくなったからだった。
 心の中に、ポッカリと穴が空いた。学校に行っても、集中することができない。まだ思春期の感情が残っていたが、男性を好きになるという気持ちはその頃にはなかった。梨乃のことを好きになってくれる男の子がいて、告白してくることもあったが、
――どうして、あんな男たちばかりしか寄ってこないのかしら?
 と梨乃が感じるほど、しょうもない男性ばかりだった。
 梨乃の目が少し理想を高くしていたということもあったが、普通に見ても、寄ってくる男性はロクな人たちではなかった、態度が軟弱だったり、話をしていても、理路整然とした話ができるわけでもなく、結局、何が言いたいのか分からずに、苛立ちだけが残るような相手ばかりだったのである。
 大学に入学すると、中学時代を思い出して、ミステリーを読むようになった。大学生になって読むミステリーは、中学時代の頃と違って、大人の目で見れるので、まるで子供だまし的なところがあるのではないかと思っていたが、意外と深みを感じることができ、楽しく読めるようになっていた。
 それは、梨乃の中で小説を読むのに最初から深みを求めているからであろう。
――探求心がないと、小説を読んでいても楽しくない――
 という気持ちがあるからで、ただ、その気持ちに行きつくまでが難しいのではないかと思えた。中学時代のように漠然と読むのもいいが、奥を求めることを覚えると、楽しみが倍増する。中学時代は、最初にテレビを見ていたので、
「テレビの後に原作を読んでも、あまり面白くないものさ」
 と言っていた人がいたが、まさにその通りだ。
 小説を重視するのであれば、先に原作を読めばいいのだろう。しかし、あの頃は家族で見るドラマがどうしても中心だった。最初に原作を読んでしまうと、せっかくのドラマが台無しになってしまうと思ったのだ。
 それに家族に先駆けて見てしまうことをまるで反則のように思っていたところもあり、家族に対しての遠慮の気持ちが働いたに違いない。
 梨乃は、ドラマを見てから原作を読むという繰り返ししかしてこなかったことを後悔こそしないが、
――あの時は楽しさが半減していたが、今度はその思いを取り返したい――
 と思っているのだ。
 小説を読むことは、勉強をしながらリラックスするための時間と位置付けていた。一年生の頃は、まだ勉強に明け暮れた生活が当たり前だと思っていて、それなりに楽しかった。高校の頃のように、大学入試というプレッシャーがあるわけではない。難関を突破して、やっと学問を楽しめるようになった環境に満足していたのだ。
「梨乃、今度コンサート行くんだけど、一緒に行かない?」
 友達が、チケットも用意してくれているという。彼氏と一緒に行く予定だったらしいが、彼氏の予定が立たずに、チケットが宙に浮いたという。
「私でいいの?」
 と、皮肉っぽく言うと、
「当たり前じゃない。一緒に行こうよ」
 と、あどけない表情を見せた。
 友達の瑞穂は、こういう表情が特徴的だった。
――何があろうとも、自分が悪いわけではない――
 という態度に見えるのだが、それも潔さが感じられると、あっぱれな気持ちにもなってくる。他の人はどう思っているか分からないが、梨乃は瑞穂のそんな表情に騙されたとしても、別に構わないとまで思っているくらいだった。
「じゃあ、決まりね。三日後の午後六時からなんだけど、大丈夫?」
「ええ、予定はないわ」
 そもそも、あまり予定を入れている梨乃ではない。毎日を同じようなスケジュールを自分で組み、その中に自分が達成したい目標を置くことが毎日の日課になっていた。何も予定のないところを埋めていくなど、梨乃にはできない性格で、目標がないと、何をしても面白くないと思っていたのだ。
――クラシックコンサートだって言ってたけど、たまにはいいかも知れないわ。リラックスできそう――
 という気持ちが強くあり、友達と夕方からの時間を過ごすのも悪くないと思ったのだった。
 ただ、合コンのようなものはあまり好きではない。目的がナンパだと決まっているところがあまり好きではない。目的が決まっていることに対して嫌というわけではなく、露骨にナンパをしているにも関わらず、あくまでも飲み会という前提のオブラートに包んでいるようで、嫌だったのだ。
 梨乃は、まわりからどのように思われているか、あまり気にしないようにしていた。気にしてしまうとキリがないのを分かっているからだ。
「あの娘、いつも一人で何を考えているのかしらね」
 それくらいのことは言われているだろう。
 別に気になるわけではない。確かに自分も他の人の目線で見れば同じことを考えるに違いないからだ。
 だが、まわりを見ればどうだというのだ。
 誰もがまわりの目の色を伺っていたり、楽しんでいるように見ながら、男性を争ってみたり、露骨であれば、それこそ修羅場なのだろうが、露骨でないと却って、その世界から目を背けたくなってくる。
 それくらいなら、一人で孤独だと思われている方がいい。ひょっとすると他にも同じような考え方の人がいて、意気投合する時が来るかも知れない。梨乃はそう思うのだった。
 三日が経って、クラシックコンサートの日に、約束通り二人は落ち合った。瑞穂は普段とは違って黒を基調の大人っぽい格好をしている、スリムな瑞穂には黒のワンピースはお似合いだ。
 梨乃は、普段とあまり変わらない落ち着いた色の服で、二人が並ぶと、瑞穂のいかにも大人っぽさが引き立たされ、目立っているようだ。
――計算ずくかしらね――
 瑞穂は思ったより計算高いところがあり、計算したことが見事に嵌ることが時々ある。それを思うと、わざとだと思われても仕方がないのだろうが、梨乃がそんなことを思っているかどうかなど、梨乃には分からない。
 コンサートは二時間だった。最初は時間がなかなか経ってくれないような気がしていたが、気が付けば終わりの時間が近づいていた。この感覚は中学時代に本を読んでいる時に似ていた。
 もっとも、ラストから読むことが多かったので、しょっちゅう感じるものではなかったが、たまに感じたからこそ、今日のコンサートの時間にシンクロしたのかも知れない。
――中学時代って、今から思えば、懐かしさの方が大きいみたい――
 高校時代が暗かっただけに、中学時代がかなり昔に思えてくる。それだけに、いつも前を向いているという感覚が強く、毎日の生活が平凡で決まったスケジュールの中で消化しているような感覚であるにも関わらず、充実していて、あっという間に過ぎる毎日に満足しているのだった。
 梨乃はコンサートの終わり頃には、ステージから目が離せなくなっていた。それに比べると、隣の瑞穂はすでに退屈しているのか、少しソワソワしているのを感じる。さすがに舞台に集中していても、隣でソワソワされると集中力も半減しているように感じるのだった。
作品名:半分夢幻の副作用 作家名:森本晃次