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寿命神話

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 実に露骨でありながら、やっている方は、必死に自分たちの保身を図ろうとする。そんな状況は実に世紀末にふさわしいと思われた。
 そんなすったもんだの状況をマスコミが演じている間、宗教団体への関心は薄れていった。
 マスコミの標的は、宗教団体から完全に、同業の放送局に集中してしまったことから、国民も、宗教団体のことを忘れていった。
「いくら一世を風靡したと言っても、一旦薄れてしまった興味を元に戻すことなどできないものさ」
 そんな声が聞こえてきそうだったが、宗教団体への捜査はその後、警察権力をフルに使って行われた。
 国民が宗教団体の崩壊を知らされたのは、報道されなくなって約一年が経った頃で、国民の多くは、
「そういえば、そんな事件もあったな」
 という程度のものだった。
 宗教団体の事件が解決すると、政治も安定してきた。
 一度政権を取った野党だったが、与党を追及することに掛けてはさすがだったが、実際に政権を取って、公約したことを実行しようとすると、なかなかうまくいかない。それは政治の世界だけで世の中を動かすことは不可能だったからだ。政財界や知識人、そのあたりの人の協力が不可欠で、野党はそこまでの根回しで完全に後手に回ってしまった。
 そのため、法案は通らずに、頓挫してしまったり、実際に法案が通って運用しようとしても、なかなかうまくいかなかったりした。
 政権が誕生して二年もしないうちに、与党としての機能は完全に失われ、内閣は解散に追い込まれた。総選挙で、すぐに前の与野党の位置に戻ることは、解散した時点ですでに分かっていたことだった。
 その間に、世の中は乱れに乱れた。それでも、政権が元に戻った時には、問題の宗教団体は解散に追い込まれ、教祖を含む幹部は、警察に逮捕され、行方不明になって入信していた人も、ひとまず家に戻った。
 一見、事件は解決したかのように見えたが、実際には大きな後遺症を世の中に残していた。
 行方不明になっていた信者が家に帰ったはいいが、実際に元の世の中に復帰できたわけではない。中には精神に異常をきたしていて、病院に入院を余儀なくされた人もいるし、家で暴れて手が付けられなくなり、施設に預けられる人もいた。家に戻って以前のような生活ができた人は、ごく少数だったということは、あまり問題にならなかったのだ。
 マスコミも落ちるところまで落ちていた。
 集中攻撃を受けた放送局は、そのまま立ち直れず、同業他社の会社に吸収合併された。幹部は全員解雇、完全に乗っ取られたような形だった。
 政権交代が起こり、元の時代に戻ったように思われたが、実際にはまったく違う時代になっていた。
 経済の疲弊は、企業の吸収合併を引き起こした。
――弱肉強食――
 この言葉がふさわしい時代になっていた。
 人員整理が行われ、最初の政権交代が起こった社会不安の時よりお失業者は増えて、さらに世の中が混乱に向かうように思われたが、実際にはそこまで社会が乱れることはなかった。
 それは、社会も国民も、混乱した世界に慣れてきたからではないだろうか。必要以上に不安を煽ることもなく、抑えるところがどこなのか、分かってきたからに他ならない。
 根本的な解決にはなっていないのだろうが、最悪の事態になることだけは免れそうだ。
 この時代から世の中は一変していく。
 国民のほとんどの人がパソコン操作ができるようになり、会社でも、一人一台のパソコンが与えられるようになり、ノートパソコンの存在は、会社以外でも仕事ができるようになったことを示していた。
 ネットの世界の爆発的な発展は、見知らぬ相手と気軽に話ができたり、仲良くなることで、何事も簡単にできてしまうという印象を、皆に与えた。
 家にいて、まるで喫茶店で皆と話をしているような感覚になり、顔が見えないだけに、悩み事なども気軽に話せることで、リアルとバーチャルの区別がつかない人が増えていった。
 これは、少し前の宗教団体問題に類似したものであったのだが、そのことに気づいていた人がどれほどいただろう?
 あの時は、相手が宗教団体という形のあるものだったが、今度はバーチャルの世界なので、実態がないと言ってもいい。何か問題が起こっても、その解決には困難を要した。それまでになかった文明であり、しかも実態のないものだ。対処のしようがないというものだ。
 ネット世界でも、詐欺が横行したりした。
 相手が見えないのをいいことに、いくらでも言い含めることはできる。特にネット依存する人は精神的にどこか孤独を抱えていると思われるからだ。まるで救世主を求める宗教団体への入信のようではないか。
 ちなみに、社会問題を引き起こした宗教団体は宗教団体としての地位はなくしたが、一般企業として生き残っていた。彼らはいち早くパソコンの世界に手を付けて、それなりの利益を上げていた。社長は元の団体にいたスポークスマン。しかし、今度は表に出てくることはなかった。
「パソコン世界というのがここまで発展するとは、さすがに思わなかったよ」
 スポークスマンは、営業会議で口にした。
「ええ社長。これも社長の先見の明ですね」
「ああ、そうかも知れないが、俺にはハッキリと見えた気がしたんだ。この商売がうまくいくってね」
「社長こそ、立派な経営者ですよ。私たちは社長についてきてよかったと思っているんですよ」
「ありがとう。だけど、この業界は、まだまだ伸びる。これからが正念場だということを、皆肝に銘じて仕事にまい進してほしい」
「分かりました。社長」
 精神論のような会議だったが、実際には、会議が催されるまでに経営方針はハッキリとしている。これも、この会社の特徴で、
「とにかく先を見据えて」
 というのが経営理念だった。
 そういう意味では、優良企業と言ってもいいだろう。
 しかし、警察の公安は、そんなに甘くはなかった。絶えずこの会社を監視していた。何かあると、社長が呼びだされたりしていたが、何とか企業側も乗り越えてきた。
 そんな追いかけっこのような状態が続いている間に、時代の流れの激しさは、想像以上のものだった。公安もこの会社だけに構ってはいられなくなってきた。
 生活安全課には、毎日のようにネット被害が報告され、公安はいくつものブラック企業を監視しなければいけなくなった。その数は日増しに増えていき、被害との因果関係も曖昧な中、状況は悪化の一途をたどった。
 そんな中だった。行方不明者が増えてくるようになっていたのだが、警察に寄せられた捜索願いは増え続けていたが、それは実際に起こっている行方不明の中の氷山の一角に過ぎない。実際には、その何十倍の人が失踪していて、その理由は様々考えられたが、これと言って対策もないまま、バーチャルな世界での犯罪が横行するようになっていた。
「まるでもぐら叩きのようだ」
 と一人の刑事が言うと、
「まったくだな。せっかく一つを潰しても、他から同じような犯罪が湧いて出てくるんだから、対策のしようがない。最初から犯罪の発覚が分かっていれば、未然に防ぐことができるのに」
 そんなことができるはずもないと分かっていて、口から出たものだった。いわゆる愚痴でしかない。
作品名:寿命神話 作家名:森本晃次