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 そしてあるときシャロン婦人がメイソンに提案した。
「あなたも大分車椅子を押すのに慣れてきました。そこの坂を上がって練習をします。十一月下旬に臨時でここに来てくれますか?日曜日に」
「日曜日に来るのはいいけど何で車椅子を押す練習なんかするんだよ。しかも坂で」
「山登りをしたいのです。ヨセミテ国立公園でハイキングをしたいのです」
「誰のために」
「私のためです。悪いですか?」
「尋常な仕事じゃないぞ。よっぽど体力がないと、山を車椅子で押して登るんだぞ」
「あなたならできるでしょう?ボーナスは弾みますよ」
「チッ。上手く人を使うな」
 
 そしてハイキング当日八百メートルも登ってメイソンはもう息が切れてきた。
「なあシャロン。話が違うぞ。小さな山だって言ったじゃないか。しかも朝の五時から登ってるんだぞ」
「まだ半分も登っていません。早くしないと朝日に遅れちゃいます」
「ハアハアハア。すげえ人使いの荒いばあさんだぜ」
「なんか言いましたか?」
「いいえ。ハアハアハア」
 そして二人は頂上に着いた。
 二人は山から朝日が昇るのを見た。
 沸き起こる熱のように少しずつ日が山から顔を出す。

 人類の起源からこの山はこうして太陽が上がっていくのを見ていたはずだ。
 
 太陽の軌跡を見守っていたんだ。

 すべての動植物に平等に光を注ぐ太陽。
 光が満ち、まるで心の奥底に鐘がなるのを感じるようだった。
 
ため息が出るような美しい朝日だった。
「綺麗だなあ」
「綺麗ですねえ。メイソンありがとう。あなたに出会えて、私本当に幸せよ」
 メイソンは黙って婦人の言葉をかみしめていた。生まれてこのかた、こんな言葉をかけられたのは初めてかもしれない。
 
 静寂と光が二人を包み込んだ。

 ずっと二人でこうして太陽を見ていた。
 その日のうちに下山し、またメイソンの忙しい毎日が始まった。

 そしてクリスマスの日が近づいてきた。
「おい、クリスマスイヴの夜に俺に仕事に出ろって?」
「そうです」
「冗談じゃねえ。あんたがクリスマスは責任もって子供を看てくれるはずだろ。せっかくアーチストの恋人ができたんだ。俺にとっちゃあ、初めてのまともな女とのデートだぜ。この日は絶対出ないからな」
「お願いメイソン。ねえお願い」
「じゃあ、俺にデートに行くなってか?」
「そうよね。大切な人ができたのよね。そうよね」
 そしてクリスマスイヴになってもメイソンは仕事に行かず恋人のアリーとニューヨークの街を歩いていた。
「ここが俺がいつも行ってるベーカリー」
「そしてここが喫茶店。仕事の帰りにいったん喫茶店に寄ったりするんだ。帰る力もなくてね。もう子供達ったらめちゃくちゃなんだ。殴るわ。蹴るわで」
「面白そう」アリーは笑った。
「そしてそこの角を曲がると俺がいつも働いているミラー邸。あれっ?何だ?」
「今の九一一の車よ」
「おい、どうしたんだろう?」
 メイソンとアリーはミラー邸に走った。そこでメイソンが目にしたものは九一一の車に運ばれるシャロン婦人の姿だった。
「おい、どうしたんだ?シャロン婦人。俺も救急車に乗せてくれ。ここで働いてるものだ」
 そう言ってメイソンはシャロンの側について病院に行った。
「シャロン婦人がメニエール病?」
「はい。安静にしていないといけない病気で本来子供の介護をするのも体力的に限界で十二月中はずっと安静にするように言ったのですが……」
「ばあさん。何で言ってくれなかったんだよ。病気だって分かっていれば……何で言ってくれなかったんだよ」
「血圧上が68。Spo2が80をきってます」看護師が医者に言う。
「酸素マスクをつけろ」
「瞳孔が散大しています。手のうちようがありません」
そしてその日シャロン婦人は亡くなった。
「ああ、ごめんよ。シャロン。あんた本当にバカだぜ。こんな俺のために。あんた本当にバカだぜ」
 メイソンは病院で泣きながらそう言った。