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第五章 騒乱の居城から

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 言うやいなや、チャオラウの拳銃が火を噴いた。
 巨漢の右の大腿が正確に撃ち抜かれ、続く二撃目で左腿が血しぶきを上げる。撃たれた瞬間は、さすがに小さな声を漏らしたものの、巨漢は「立派な傷害罪ですね」と、うそぶいた。
 四肢を封じられてなお、不気味な笑みを顔に貼り付けたままの巨漢に、チャオラウは神経を尖らせながら近づく。
「そんなに警戒しなくても、何もできはしませんよ」
「……お前、その巨体を活かさぬ動きをしたな」
 チャオラウの初撃は、おそらく巨漢には見えていた。だが、鈍重な体では避けきれなかった。もし、あれを躱そうとはせずに受けていれば、あるいはもっと切迫した勝負になったのではないかと、チャオラウは思う。
「何を隠している?」
「さて?」
 巨漢の笑みに、チャオラウは、えも言われぬ不快感を覚える。彼の嫌いな卑劣な人種、何を仕掛けてくるか分からぬ輩である。
 チャオラウは一息に詰め寄ると、巨漢の喉に腕を回し、瞬時に頸動脈を締めた。
 ――巨漢は、あえなく失神した。
 チャオラウは、巨漢のポケットをまさぐり、手錠を見つけて所有者を拘束した。
 イーレオの張りのある魅惑の声が、労いを掛ける。
「ご苦労」
「いえ」
 短いやり取り。しかし、彼らにはそれで充分だった。


 ルイフォンがメイシアの手を引いて屋敷内に入ると、入り口のところで「遅いぞ」と、低く魅惑的な、けれど冷たさを感じる声が掛かった。
 壁に背を預け、ひとりの男が待っていた。軽く腕を組み、感情の読めない目をこちらに向けている。
 リュイセンそっくりな美貌。頭に白いものがちらついているが、それすらも渋い大人の魅力にすり替えてしまっている男――次期総帥にしてルイフォンの異母兄、リュイセンの父であるところの鷹刀エルファンである。
 彼は群衆に紛れて庭にいたのだが、要領よく抜け出して先回りしたらしい。待ちかねた様子で近づいてきた。
「父上!」
 ルイフォンに続いてやってきたリュイセンが叫ぶ。
 電話でのやり取りはあったものの、空港で分かれて以来である。お互い、それなりの危険を経てのことであったので、リュイセンの顔に安堵の笑みが浮かんだ。――が、その瞳が父の隣に立つ、警察隊の緋扇シュアンを映した瞬間、がらりと表情が変わった。
「父上、この者は?」
「警察隊の緋扇シュアンだ」
「利用価値を認めたわけですね」
「ああ」
 リュイセンが疎ましげな眼光を放つ。対してシュアンは、制帽に押しつぶされたぼさぼさ頭の下から、不快気に三白眼を覗かせた。
 ふたりの目線が交錯し、火花を散らす。
 リュイセンにしてみれば、ミンウェイに執拗に絡んできた唾棄すべき輩である。シュアンにとっては、図体のでかいお子様が意味もなく偉そうだ、としか思えない。
 最後に、ミンウェイに案内されたハオリュウが到着すると、彼はルイフォンの手が異母姉メイシアの手を握っていることに気づき、眉を寄せた。
 互いの立場からすると、決して友好的とは言い切れない面々が、現時点では協力関係にあった――。


作品名:第五章 騒乱の居城から 作家名:NaN