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てっしゅう
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「空蝉の恋」 第十八話

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何年ぶりの感触だろう。体に電気が走った。
もう動けなくなってしまった身体を徳永はさらに強く抱きしめ、唇を強く吸い始めた。
私が感じているだろうことを悟ると、腕を離し、手を頭にやって、髪を撫でていた。
観念したととられたのだろう。

なが~い、なが~い時間に感じられた。
唇を離すと、再び、好きですと徳永は言った。
返事が出来なかった。どうしていいのか分からなくなってしまったからだ。
手を繋がれて、車に戻った私はそれから一言もしゃべることが出来なかった。

「怒ってるの?」

首を横に振る。

「佳恵さんが全てなんだ」

返事が出来ない。

「もう会わないって言わないよね?」

ちょっと時間を置いて、首を縦に振る。

「良かった。じゃあ、家まで送るよ」

初めて声を出す。

「まだ、帰りたくない・・・」

何ということを言ってしまったのだろう。取り返しのつかないことになってしまうというのに。
私は徳永のことが好きになったというより、いまされたキスに何かのスイッチを押されてしまったという方が正しい気持ちだった。

以前恵美子から、心の深いところに満たされていない恋愛感情が潜んでいるのよ、と言われた言葉を思い出していた。
頭の中は普通ではなかった。普通だったら、「何するの!」と怒る場面であったからだ。
あれだけ食事の時に、「困ります」とか「親しくは出来ません」とか「若くないので付き合う資格なんかない」とか、最後は「夫がいますので」と深い付き合いは断っていたのに、今日の自分は違っていた。

家を出る時に、「生理の前だから・・・安全日?」とか、「短いスカートをはいて可愛いって思ってくれるかしら?」とか、チラッとでも考えた自分がいた。
勿論下着も新品を身に着けている。
娘に言った「女の身だしなみよ」というのは、抱かれる時のマナーよ、という意味だったように思えた。

初めて夫に抱かれたときのことを思い出した。
30になるまでそれほどの恋愛をしてこなかった自分は夫の成すことが男性のすべてだと信じ込んでいた。
それは徳永や和仁と出会うまでずっとそうだった。

ここ最近夫の態度の変化に嫌気が差して、半ば自暴自棄になっていた精神状態でもあったのかも知れない。ことセックスに関してはもうあきらめかけていた。
自分の女としての輝きが更年期を前に閉じようとしていることへの反発が今こうして徳永といる時間に繋がって来た。