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[マル目線(前編)]残念王子とおとぎの世界の美女たち

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心の中で反芻して、思わずにやけそうになった頬を慌てて引き締める。

「もー、どうせピーマンなんですから、色々考えずに今は休んでください。」

食べ終わった王子を再び横にさせると、布でしっかりとくるんだ。

「寒くないですか?」

私が訊ねると、王子が妙に艶っぽい瞳で私を見上げた。

「ん。」

(ん?)

その潤んだ瞳が気になって、そっと額に手を当てた。

すると、いつもより体温が高い気がする。

「王子…。」

「大丈夫。眠ったら良くなる。おまえも、僕をここまで連れてくるので疲れたろ?服が乾いたら、休めよ。」

早口で私の言葉を遮ると、王子はゆっくりとため息をつきながら目を閉じる。

手にかかった吐息が、いつもより熱い。

私は王子の濡れた髪を、布でゴシゴシ拭いて、なんとか早く乾かそうとした。

そんな中、いつもよりちょっと早い呼吸で、王子が寝息を立て始めた。

(明日にでも、船に戻れたら…。)

私は王子の額に自分の額をそっと当てて、王子がこれ以上苦しまないように祈るしかなかった。

王子の体調を気にしながら、私はとりあえず王子と自分の服を火のそばで乾かした。

そしてそのほんのり温まった服を、王子に着せる。

再び布で王子をくるむと、王子がぶるっと身震いした。

それからガタガタと震えだす。

私は慌てて王子に駆け寄ると、額に手を当てた。

(熱が上がってる!)

私は王子をくるんでいる布をめくるとそこに潜り込み、王子をギュッと抱き締めた。

王子は呼吸が荒く、額に汗を浮かべて苦しそうに呻く。

私は一晩中、王子を抱き締めて額の汗を拭いながら、火の番をした。

夜が明ける頃、王子の呼吸が少し穏やかになった。

依然、熱は高いけれど、少し状態は安定したように見える。

その時、砂浜の方から声がした。

「王子!マル!」

聞きなれた爺や様の声に、私は小屋を飛び出した。

そこにはボートを砂浜に着け、騎士たちと爺や様がこちらへ走ってくるところだった。

そのボートの脇には、人魚姫の姿がある。

私は爺や様に駆け寄ると、その胸に抱きついた。

「王子が、熱が高いのです!!」

爺や様はハッとすると、後ろの騎士たちを振り返り、いつになく厳しい声色で叫ぶ。

「すぐに、王子をお連れするのだ!」

私は騎士たちよりも早く小屋へ戻ると、すっかり火が消えてしまった囲炉裏に残っていた水をかけて確実に消火する。

そして王子をそっと抱き上げた時に、騎士たちが入ってきた。

王子が小さく呻いて、うっすら目を開ける。

「王子、迎えが来ましたよ!」

すると王子が騎士たちを見て、小さく微笑む。

「ありがとう。」

そして再び目を瞑る王子を、騎士の一人が私から抱き取った。

「小柄なおまえには、無理だ。俺達が王子はお連れする。後からもう一度ボートを寄越すから、それでおまえは戻るといい。」

そして王子を連れていく騎士を、私は追いかけた。

「ボートは不要です。私は泳いで船に戻るので、梯子だけかけていてください。」

すると、もう一人の騎士がこちらをふり返る。

「いや、おまえだけでなく俺も乗れないから、二人でここで待とう。」

私は渋々、引き下がった。

すると爺や様が、私の頭をポンポンと撫でる。

「マル、よう頑張ったな。よくぞ、王子をお守りしてくれた。」

私は慌てて、跪く。

「いえ、そこの人魚姫様がお助けくださらねば、どうなっていたかわかりません。」

すると、爺や様が人魚姫へ向き直り、深々と頭を下げる。

「私は、王子の爺をつとめております。この度は、本当にありがとうございました。王子が快復したら、改めてお礼にうかがわせて頂きます。」

人魚姫は、にっこりと微笑んで頷いた。

爺や様も微笑み返すと、サッとボートへ乗り込む。

そして私を手招きした。

「マル、乗りなさい。」

「え!?でも…」

躊躇う私の前で、爺や様はボートに乗っている騎士をふり返る。

「おまえは降りなさい。おまえがいても、王子のお世話の役には立たん。」

爺や様に鋭く言われた騎士は、慌てて降りる。

「マル、おまえがいないと誰が王子の面倒を見るんじゃ。早よう来い。」

私は騎士たちに頭を下げると、ボートへ駆け乗った。

そして人魚姫に頭を下げる。

「本当にありがとうございました。」

人魚姫は、すすっと寄ってくると、私の耳に唇を寄せる。

「お礼は、王子とのデートでいいわよ♡」

(え!?)

「こいつ、ピーマンな上、すっごいクズですよ?」

思わず囁くと、人魚姫はくすくす笑う。

「やーっぱ、あなた、女ね。」

(!?)

反論する前に、人魚姫がボートをグイッと押した。

私は慌てて櫂を手に取ると、ボートを漕ぐ。

そしてぐんぐん遠ざかる私に人魚姫は
投げキッスをして、海中へ姿を消した。