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[マル目線(前編)]残念王子とおとぎの世界の美女たち

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特に毒を使う私は、他の肉食動物が遺体を間違って食べてしまわないように、この処理がとても重要で責任があった。

(さっきの狼に引き続き、今日2回目…。)

うんざりとため息を吐きながら、火の始末を確認する。

処理が終わる頃には、頭から浴びた返り血は乾いてパリパリに張り付き、全身から生臭い鉄と脂の臭いがしていた。

そんな自分に、吐き気がする。

私は近くの沢に行くと、その冷たい水で簡単に返り血を洗い流した。

すっかり辺りは闇に包まれている。

私は急いで山を降りて、城への道を忍特有の走り方で駆け抜ける。

すると、遠くに王子の姿を見つけた。

鼻歌でも歌いながら、のんびり帰っている。

私は大きなため息を吐くと、いつも通り気配を消して護衛する。

城が200mほどに迫った時、私は王子から離れ、城門の前へ先回りする。

そして腕組みをして待っていると、王子がのんびり戻ってきた。

「おかえりなさい、王子。」

私がリンちゃんの手綱を掴むと、王子は露骨に嫌そうな顔をする。

「いつの間に戻ってたの?あ、気安くリンちゃんに触んないで。」

そんな王子を私は無視して、そのまま王族専用の厩舎へ誘導する。

王子は苛立った様子でリンちゃんから降りたけれど、リンちゃんに鼻でつつかれると頬をゆるめる。

「すぐお水と飼い葉あげるからね。」

私はその隙に、王子の私室へ戻り、着替えや食事の用意をする。

「おや、マル。また小姓のようなことをしているのか。」

「爺や様。」

穏やかな微笑みを浮かべて、王子の爺や様が私室に入ってくる。

「お勉強の時間に行方をくらました、愛しい我が王子のお顔を見にきたのだが…。」

私がここに来てから、王子が爺や様の講義を受けている姿を一度も見たことないけれど、爺や様がそのことで叱ったりお小言を言ったりするのも見たことがない。

遊びたいさかりだから、王子がいつか自覚を持たれるまで待つ、と笑顔でおっしゃる優しいお方だ。

「わっ、爺や!」

私室へ戻ってきた王子が、驚きながらソファーへ座る。

「ほほっ。今日はいかが過ごされたのですかな?…おや、頬に血が…返り血、ですかな?」

爺や様は笑顔で、その傍らに跪く。

「…。」

王子はそんな爺や様から視線をそらすと、ばつが悪そうに頭をかく。

「まぁマルがいるので、少々の危険があっても安心ですな。」

爺や様は、言いながら笑みを深めた。

そんな爺や様に頭を下げながら、私は王子の傍らに跪き、温かいおしぼりで王子の頬を拭った。

「マル。」

爺や様が穏やかな笑顔のまま、私からおしぼりを取る。

「しばらく王子のお世話はわしがするから、おまえは風呂にでも入ってきなさい。」

(…え?)

一瞬、なぜそんなことを言われたかわからなかったけれど、ハッと気がついた。

「血生臭い…。」

王子も、ぼそりと呟く。

「す…すみません!ではお願いいたします!!」

私は逃げるようにその場から姿を消したけれど、消すときに王子の声が聞こえた。

「僕のために、マルは自らを汚してくれたんだ…。」

私は、その言葉で全て報われた気持ちになった。