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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅷ

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「何の話?」
 日垣は、いつもの店にいる時にだけ見せる和やかな笑みを浮かべながら、いたずらっぽい目を美紗に向けた。
「この前、一人でここに来た時に、お店の方にこのカクテルを、作っていただいて……」
 声が尻すぼみになるのと同時に、美紗の体も小さく縮こまった。青い礁湖というには深すぎる色合いに作られた特別なブルーラグーン。それを初めて飲んだ時のことは、日垣には知られたくなかった。「より濃い青のほうが似合う」と言った藍色の目のバーテンダーに、「ずっと年上の彼と一緒にいたい」と胸の内を話してしまったなどとは、とても言えない。
「これが、君のイメージ?」
 日垣は、海の中のような色をしたカクテルグラスを、覗き込むように見つめた。透き通る深い青が、テーブルの隅に置かれたキャンドルホルダーからこぼれる光を受けて、グラスの中で神秘的なグラデーションを作っている。
「綺麗な、色だね」
 静かな低い声が、美紗の頬をわずかに染めた。その言葉は青色のカクテルに向けられたものだと分かっているのに、強いアルコールを飲んだ時のように、胸の中がじわりと熱くなる。
 大きな手が、水割りのグラスを取り、軽く掲げて「乾杯」のジェスチャーをした。美紗もカクテルグラスの華奢な脚を持つ。それを目の高さまで上げると、深い青色と、その向こう側にある薄い琥珀色が、落ち着きのあるコントラストを作った。

『貴女のお相手が、疑う余地なく信頼に値するお人だとお思いなら……』

 記憶の中の藍色の瞳が囁く。柑橘系の香りと共に、心地よい酸味と苦味がにじむように広がり、青と紺の間のような色が、体の中に入っていく。

『……その方の価値観に、ご自身を委ねてみてはいかがですか』

 藍色の目のバーテンダーの優しい笑みが、何度も脳裏をよぎる――。