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HAPPY BLUE SKY 退出までの2週間 2

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4年振りの再会1



それから翌日の事だ。俺は領事館で行われていた会議に出席していたのだが、思いの外‥会議が延びて次の会議に遅れそうになっていた。支部の正面玄関で、IDカードをセンサーにかざし、ゲートを通り抜けた時だった。俺の目の前に長身で細身の男が立っていた。目の前の男の顔をどこかで見たような気がしたが、中佐会議に遅れそうな俺は、確かめる事もなく男の横を通り過ぎて行った。また‥カッジュも外出していた。彼女は支部の体育館ホールの工事に立ち会っていた。

俺とカッジュがが部室に帰る前に、その男が部室に来たらしい。このフロアーは、一般人は立ち入り禁止なのだが、彼は特別IDカードを首からぶら下げていた。特別IDカードが発行されるには、それなりのコネがないと入れないはずなのだが。

「失礼します。立野一美さんはいらっしゃいますか?」
対応に出たツィンダーがその男の顔を見た。ツィンダーは思わず声を上げそうになった。その男は昨日にバス停で見た、カッジュにそっくりの男だったから。

「どちら様でしょうか?」
男は被っていたキャップを脱いで、ツィンダーに頭を下げた。
「申し訳ございません。名乗りもせずに‥俺じゃなかった。私は‥」

その時だった。廊下から数名の声が聞こえた‥男は廊下を振り返った。男はそのまま立ち尽くしてしまった。そして‥震える声で言った。
「か‥一美ちゃん!」
男は廊下に響く声でカッジュの名前を呼んだ。また‥カッジュもその場で立ち尽くしてしまった。カッジュの目からも男の目からも涙が溢れていた。
「何で‥ここにおるん?」
男は目をこすりながら、カッジュに近づいて言った。そしてカッジュを腕に抱きしめた。
「中村先生に聞いたんや。一美ちゃんがN国に居るって‥NATOC軍に入って元気に暮らしているって聞いた。俺‥一美ちゃんに逢いたくて‥来ちゃった」
男はカッジュの肩に顔を埋めて肩を震わせて泣いた。またカッジュも肩を震わせて泣いた。アーノルド少佐が部室の外に出てきて、事情を察したのか私に言った。

「中に入れ‥カッジュの美味しいコーヒー入れてやれよ。身内だろ」
カッジュは目をこすりながら‥男の腕を軽く叩いた。男も目をこすりながら、
「申し訳ありません‥俺は立野 智(さとし)です。立野一美の弟です」
「申し訳ございません。廊下で‥私の弟です」
「そうか‥入りなさい。もうすぐ中佐も帰って来るから」
その時だった。あの聞き慣れた靴の踵の音がした。カツカツと廊下に響いた。
「あ‥中佐だ。ご挨拶して入室しなさい。弟君」

俺はカッジュが手渡してくれたマグカップを受け取った。
「ホント‥よく似てるね。弟の智君」
俺のその声に、弟の智君はカッジュの顔を見て。
「中佐殿は知らないの?」カッジュは黙ってうなづいた。
「どういう事だ?」俺はカッジュの頭を軽く手のひらで叩いた。
「隠してたワケじゃないんですけど、もうこの弟にも逢う事はないと思っていたんで」
「俺はそう思ってなかったよ。俺は絶対に一美ちゃん見つけてやるって心に決めてたから。俺達は片割れになにかあったら、必ずわかるから!」
智の言葉に俺達は驚いた。カッジュは軽く息を吐いた。

「俺が言っていい?一美ちゃん」またカッジュはうなづいた。
「俺達はツインズです。二卵性ツインズで、先に産まれたのが一美で俺は後で産まれました。だから‥わかるんです。片割れがケガや事故にあったら、体にビビッときます。それは小さい頃からずっと変わらない」弟の智君の言葉に、俺達は驚きの声を上げた。

カッジュは軽くため息をついて‥
「そうなんです‥不思議な事にわかるんです。この4年程は感じませんでしたが、小さい頃は弟がケガすると、私も同じ個所が痛くて」
その言葉にも俺達はまた驚いた。カッジュは弟の智君の頭を平手で叩いた。
「アンタは何で、いつもこーなん?予告も無しで!小さい頃からいっこも変わらへんえ!その度に、私はいつも驚かされたわ!」
カッジュの話す言葉に俺達はまた驚いた。俺達の前で話すのは英語だ。俺達も公務で色んな国に行くので、英語や他国の言葉もわかる。でも‥カッジュが話す言葉は、日本語に聞こえるが、どうやら標準語ではないようだ。
「どうやって支部内に入ったの?ここのフロアーはそう簡単に上がって来れないのよ」
カッジュは今度は、俺達の理解できる英語で話を始めた。

要約すると、こうだ。
弟・智君はここに入る為に、中村先生に頼んで特別IDカードを手に入れたらしい。部室に行ってカッジュに逢えなかったら、すぐに帰って来る事を約束してこのフロアーに来たらしい。また‥この弟君は俺達にこう言った。
「俺の事は【SATO】って呼んで下さい。一美がここに居るんなら、俺もここに居ます。俺は医師です!って言っても、見習いですけど」
「医師ぃ‥アンタが?イツ医大に行ったん?学費はどーしたん?」

またカッジュがお国言葉でしゃべった。智君はカッジュの持っていた、サブレを手から取り上げて口に入れた。
「あぁ!!私のん!何すんのよぉ!まだ1枚も食べてないのに!」
「手に持ったら、サッサッと食べんへんのが悪いんやぁ。あぁうまぁ!ッデェ!」
怒ったカッジュが智君の足を蹴ったようだ
「調子コクんやないわ!」
「ご‥ごめんね!一美姉ちゃん!かんにんしてぇ」
カッジュの剣幕に弟の智君は、頭をガードしながら謝った。

そこで部室に入って来た中村先生のカミナリが立野姉弟に落ちた。
「エエ加減にせんか!!立野姉弟!!何をやっとるんや」
中村先生の怒号に立野姉弟はピタリと小競り合いを止めた。
「申し訳ない!この通り私に免じて許してください。一美・智!」
「申し訳ありませんでした」立野姉弟は立って頭を下げた。
「イエイエ‥中村先生が謝る事じゃないです。先生の方から事情を聞きましょう。コイツらに事情説明させたら、また途中で小競り合いだ」
「その方がいいな。ではお話しましょう」

先生が言うには、また智君も世界選手権の1位獲得で、カッジュの居場所がわかったそうだ。親父さん同様に中村先生に連絡を取り、先生がN国に入国したら自分も入国して、カッジュに逢う事を智君は決めた。
「この坊主は上の大学部に入学が決まっていたんですがね。それを蹴りまして、日本のJ大の医学部を受験しました。奨学金制度のある大学を選んでね!高等部の時はロクに勉強せんかったのにな‥よく合格しましたよ。6年間頑張って昨年国家試験に合格しました。今年に研修医になったんですが、私の後を着いてきたんです。これでいいか?カッジュ」
「ったく!アンタは!」カッジュが弟を睨んだ。
「うん。中村先生に着いてきたんだ。昨日入国したんだ‥手続き等で時間かかって」
「智君‥手続きって何だ?」アーノルド少佐が尋ねた。
「俺ぇ!ここに住むんです。剣流会でバイトしながら、病院探して一人前の外科医師になるんだ。まだインターン1年目だからね」
「え‥エェ!!ここに住むぅ?剣流会でバイトぉ?アンタねぇ!」
「エエでしょ!俺ぇ‥姉ちゃんの傍におりたいし!剣流会でも講師するし」
またカッジュが、智志君の胸倉を掴んだ。

「講師のバイトかぁ?智志君は何系だ?」ビリー主任が聞いた。