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HAPPY BLUE SKY 中編

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カッジュの転機【3】



ミラドはカッジュに口を開けさせて、ペンライトを照らしながらカッジュの口の中を見た。
「あぁ‥切れてる。それも結構深くだ」
「そんな深く切れてるのか?」ソファに座っていた俺は思わず声をあげた。
「あぁ‥カッジュ!何ですぐに手当しなかったんだ。日本でも病院はあるだろう」

ミラドの問いにカッジュは目を伏せた。カッジュは答えに困ると、時々目を伏せる癖が出る。仕事面ではその癖は出ないように心掛けているが、仕事外では時々この癖が出るのだ。俺も仕事外ではその癖に対しては口うるさく言わなかった。仕事内では厳しく叱った事はあるが。

「すぐに飛行機乗っちゃったから、手当できませんでした」
カッジュは目を伏せたまま言った。ミラドはカッジュの口をまた覗き込んで俺に言った。
「って言ってるぞ。ここで理由を問いただすのか?ボス」
「仕事外だからな。強制はしないが、日本で何かあったのか?カッジュ」
その時だった‥カッジュの瞳から一筋の涙が頬を伝い落ちた。そして、カッジュは俺とミラドに日本であった事を話し出した。ミラドはカッジュの口の中の傷とファンデーションで隠された頬の内出血を見て怒った。俺もカッジュの頬を見て怒りを覚えてしまった程、カッジュの頬は青黒くなっていた。

「ったく‥なんて殴り方するんだ!女性に大して」
「誰にやられたんだ?おまえ抵抗しなかったのか?」
カッジュは答えなかったが、俺にはわかった。
「‥‥親父さんか?」
俺の問いに、カッジュは指で目を押えた。ミラドは俺の顔を見た。俺はミラドに軽くうなづいた。ミラドはカッジュの家の事情を知らなかったから。

カッジュが旅立った所は日本だった。訓練校在学中には、シーズンごとに休暇があったのだが、カッジュは日本に帰国しなかった。休暇中はルームメイトも過ごしたが、その他の休暇は1人で過ごしていたそうだ。カッジュは街歩きが好きで、よく訓練校の周りやモノレールに乗ってN国市内を歩いていたと言う。俺は訓練校の卒業式前に、カッジュに聞いたことがあった。休暇中はどうするのか?ホームワークは出したが、休暇全部をホームワークに潰すの可哀想だと思ったから、加減してホームワークを出した俺だった。そのホームワークを全終了させて、余った日数でカッジュは「街歩き」をすると俺に言った。それもいいと思ったが、俺は一度、カッジュに言い利かせようと思った事があったので、カッジュに提案してみた。

「カッジュ‥訓練校に入ってから日本に帰ってないんだろう?一度帰ってみたらどうだ?正式隊員になったら、思うように休暇が取れないかもしれない。この仕事だからな。サマーバケーションやクリスマスはだって休みじゃないかもしれない。親父さん嫌いなのはわかるけど、親父さんは口に出さないけど、おまえの事心配してると思うよ。いい機会だから、日本に帰って親父さんと話をしろ。この仕事はな、心にわだかまりがあると、状況判断が狂う時があるからな。ちょっと考えてみろ」

カッジュはカッジュなりに考えたのだろう。俺の提案を受け入れてくれて、訓練校の卒業式が終わって数日後に日本に帰国した。帰国したカッジュは、真っ先に母親の眠る墓苑に行ったそうだ。家に帰ったが、姉・弟には逢えなかったそうだ。カッジュが日本を出国してから、弟は家を飛び出して行方不明になっていた。姉は結婚して家を出ていた。家には親父さんが1人住んでいたそうだが、その親父さんも家には滅多に帰らずにホテル暮らしだったそうだ。カッジュは誰もいない家で2日程過ごした。そして3日目の朝に、N国に帰国するのに玄関を開けたところで、親父さんが家に帰って来た。カッジュはまた目を押えながら、俺とミラドに話しだした。
作品名:HAPPY BLUE SKY 中編 作家名:楓 美風