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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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2032年のHIT MAKERS STATION

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7月15日頃、私はいつものようにテレビをつけて夕食を取りました。すると、私がずっと昔によく出演していた「ヒットメーカーズ・ステーション」(通称「HMS」)がやっていました。この番組を見るのは本当に久しぶりなので、何だか懐かしい気持ちになりました。その日の出演者が次々に登場し、最後に登場したのが、あのイェーツ・マーロウ&オドネルでした。久々に彼らの姿を見て、私はとても複雑な気持ちになりました。
 私がひどく苦しめてしまった彼らが、メジャーデビューから数年でさまざまな偉業を成し遂げ、何度かトラブルに見舞われたことも知っていますが、それでも仲間割れも解散もなく活動しているのは、素直にすごいと感じています。

 しかし、よく見てみると、他のメンバーに比べて随分若い子が、彼らとともに登場しました。
(あら?Y.M.&OD.(イェーツ・マーロウ&オドネルの略称です)は3人のはずだけど?)
 しかも彼は、その顔つきや体型が、ある人に何となく似ています。
 さらに驚いたのは、モリシーさんの後任の司会者が、
 「『LOVE BRAVE』の皆さん、ようこそヒットメーカーズ・ステーションへ」
 と挨拶したことです。「LOVE BRAVE」、彼らのインディーズ時代のバンド名です。私は何とも言えない気持ちになりました。
(「LOVE BRAVE」…?)
 司会者が、若いメンバーに質問しました。
「君、今日が初めてのテレビ出演なんだって?」
「あ、はい。初めてです」
 彼のはにかんだような笑い方は、やっぱり私のよく覚えている人に似ています。司会者は
「今夜はこのプログラムを楽しんでね」
 と言うと、握手を交わしました。


 「LOVE BRAVE」は大御所バンドのためか、彼らのトークは出演者の中でも最後のほうでした。
「新メンバーが加わったそうで」
 司会者が切り出すと、ヴォーカルのフィルが答えました。
「はい。ギターのスティーブン・シュルツです」
 紹介されたギタリストの名前を聞いた瞬間、私は思わず
「神様!」
 と叫びました。この少年が健全にここまで育ったことへの感謝の念と、自分が原因で彼に悲しい、寂しい思いをさせてしまったことへの罪悪感という、二つの違う感情がすごい勢いで私の胸に押し寄せてきました。涙にむせいでいたので、スタジオでどんなトークが繰り広げられていたのか、ほとんど覚えていません。

 トーク終了後、彼らはライブに移りました。何とか涙を拭いてテレビを見ると、ちょっと太ってしまったけれど歌唱力は「レベル100」と言うべきフィルの横で、上手に、また楽しそうにギターを弾くスティーブンが映りました。
(この子、まだ10代半ばなのに、何て奇跡的な腕前…!)
 彼は、いろんな面で父親の遺伝子を受け継いでいて、まるで彼の父親を見ているみたい…。そんな思いが私の頭をよぎりました。


 音楽業界を去った私が「LOVE BRAVE」に関わることは、恐らくもうないでしょう。でも、目立たないかたちで彼らを応援するつもりです。
 どうか、ミュージシャンの仲間入りを果たしたうら若きスティーブンが、才能に溺れることなく、またさまざまな重圧に負けることなく、仲間たちとともに楽しく音楽活動を続けられますように…。そう祈らずにはいられませんでした。