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目覚めると…

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 玄関のドアを閉めてから、私は声をあげて泣いた。紙コップの水をかけられた事も悔しかったが‥
「な‥何でそんな風に言われんといかんの?オトコ落した覚えないかないもん!見よがしってそんなこと‥思って言ってないやん!何で私だけ」また涙がとどめなく流れ玄関の床に落ちていった。

 どれだけ‥玄関の中で泣いただろう。かがんで泣いたから足も痺れていた。また寒さも感じて身震いをした私だった。
あれだけ泣いたらノドも渇く。またお腹も空いた‥よく考えたら私はここ2週間ほどロクに食事を取っていなかったな。
痺れの残った足で立ち上がり、ゆっくりと廊下を歩きながら‥
「もう辞めてやる‥あんな所で仕事したくない!院長先生は大好きだけど‥事務長とXXXさんと一緒に仕事するのやもういや!!絶対イヤヤ!」と声を振り絞って叫んでしまった。そして ソファに辿りついた途端‥私は力尽きてまた意識が遠のいてしまった。

 その頃‥クリニックでは院長先生が事務長と上司のXXXさんを呼ん怒っていたそうだ。私がクリニックを飛び出したのが院長先生の耳に入ったのだ。私を知っているガードマンの室田さんが、泣きながら私がドアを出て行ったのを不審に思い、院長先生の元に連絡を入れたらしい。院長先生がクリニックの後輩でもある小枝子と美春を私のマンションに向かわせたが‥力尽きてソファで昏々と眠る私にはインターホンの音も呼びかけの声も聴こえなかった。

 どれぐらい眠ったのだろう。辺りは薄暗くなっていた‥壁の時計を見ると夕方の19時を過ぎた所だった。
泣き過ぎて頭も眼も痛かった。携帯が点滅しているのが視界に入ったが出たくなかった‥また私はフラフラと歩き出し、そのまま寝室のベッドに潜り込んだ。そこから私の記憶がなかった。

 また、リアルな夢だな。今度は母の手の感触まで伝わった。私はその母の手を握って笑顔で話している。また横の母も笑顔で私の話しをうんうん‥とうなづきながら聴いてくれる。小さい頃に母と買い物がてらよく散歩に行った。その時によく母と新神戸駅の南にある公園で遊んだものだ。遊んでいる私に母よくこう言った。
「美咲ちゃん‥今度は新幹線に乗ってと旅行しようか」と‥
でもその約束は果たされることはなかった。父が病に倒れ入院してしまったのだ。
 父は2週間後帰らぬ人となった。
作品名:目覚めると… 作家名:楓 美風