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冥途カフェ

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何と申しましょうか、突き詰めて考えればつまりその、何事につけ万物には、やはり表裏一体のたとえの如く、影のようについて回る強い結びつきがあるもので、・・・実際、現世にもあれば、やはりまた、西方浄土の来世にも必ずやあると言うシロモノでございます。
現世と来世の間にある格差社会と言えば、洒落ではなく、天と地ほどの開きがありまして、それはもうそこに暮らす住民達の年齢別格差に反映されているとでも申しましょうか。
現世は、常に誕生つまりビッグバンの様な物から始まりまして、0歳から先人の教えを乞いながらも、凄風苦雨を重ね成長いたしてまいりますが、来世では、誕生と言う概念はとんとなく、葬儀後からの横一線のスタートになりますので、0歳はほぼ皆無に等しく、いきなり超高齢化社会となっております。
やはり、お年を召しても、老いらくの恋とでも申しましょうか、人間のさがとでも言いましょうか、癒しの場を求めて、それこそ冥途カフェには、人だかりが立ち整理券がいるほどに、繁盛いたしております。
もちろん、冥途カフェのメイドの方々は、年齢的に見てもとてもお若く愛らしく、大人っぽいレースがあしらわれた後ろロングのスカートと、黒いニーハイソックスがたまらないほどお似合いの萌えキャラ嬢です。
が、若くしてこちらに来られたのには、それなりのご事情がお有りの様子で、時折、暗い影を、お見せになられますが、仕事には、常にサービス業としての誇りを持ち、明るく、また気丈に振る舞っていらっしゃいます。
そして、やはりこちらにも当然、アイドル的存在の、冥途
さんがいらっしゃいます。
お年は、少々召しておいでですが、年に似合わず、可憐で
愛くるしいお姿なので大変な人気でして、別に店を一軒
任されていらっしゃるほどの実力をお持ちの方です。
なぜそんなに、人気があるのかと申しますと、生前スナッ
クをされていて、大変繁盛していたそうなのですが、心労
が重なり、ついにこちらへ、後ろ髪を引かれる思いで来ら
れたと、伺っております。
その折、多くの残された常連客の方々が齢を重ねるごとに、ぼつぼつと、こちらにやって来られているので、ファンが急増したと言う事でしょうか。
お客様は、もちろん、やっぱりというか、皆さん、超高齢の要介護経験豊富な男性の方々ばかりで、経験値とでも言いましょうか、海千山千のつわもの揃い、一筋縄ではいきません。
ここで、連れ合いの方に再会されたはずなのですが、いつも何とか誤魔化して、通って来られるのでしょう。
しかし、やっぱりと言いましょうか、ここにも法律の網が存在し、各ポイント毎に防犯カメラが設置されており、罪を犯すと、地獄の一丁目へ島流しと相成ります。
メイド:「いけませんよ、おじいちゃん、そんなおいたをしては、」
客:「介護を受けていた頃は、気は焦っても体が全然利かんかったが」
客:「ここに来たら、軽くなりおるし、もう天国や」、もちろんここは天国ですが、
メイド:「ここに居たかったら、マナーをきちんと、守って頂戴ね、おじいちゃん」と、孫のようなメイドから諭されても、心ここにあらずといったあんばいでして、
メイド:「でないとほら、ごらんなさい、刑期を終えた方々
が、いま帰って見えられたわ」
そうそれは、ここの第一級河川でもある三途の川と申しましょ
うか、下手の方から上ってくる一艘の渡し船、中の一団は
これも超高齢の方々ばかり。
ここには、強盗犯も、殺人犯も、存在しませんが、
風紀が乱れるとの理由で、唯一チカン行為は、厳罰に処せ
られます。
刑期明けの方々が口々におっしゃられるのは、体はどんだ
け痛め付けられても、平気じゃったが、精神的に参ってしま
うと。
それはそうでしょう、もちろん体は有って無いような物な
ので、そこはツボを心得た、地獄の責め苦役の皆さん、十
二分にお仕事をされているようです。
また、どういう具合か、中国からも、大挙して冥途カフェ
目指してやって来られます。
本来ならば、生身の人間は、来られないはずなのですが、
そこはそれ、チャイナコネクションという、ありえない手
法を使い、閻魔様に、多額の賄賂と滞在費を、火葬通貨で
一括払い、いきなりどっと来られます。
やはり、諺は生きていたと言う所でしょうか。
こちらの、職種別ランキングを見てみますと、やはりと
申しましょうか、ブラックや、グレー企業を経営されてい
た方や、政治家の方々は、ついぞ見かけず、田を耕したり、
紡いだり、小商いをしたりと、そういった日々まっとうな
暮らしをされていた方々が、大多数を占められています。
また、官僚の方々は、豊富な知識と、実務経験を生かして、
閻魔大王様の、巨大な官僚組織に再就職され、再び喜び
を感じながら、日夜運営に携われていらっしゃいます。
また、生前に得を積まれ、袈裟を身にまとい、人々に有り難いお説教をされて
いたはずの尊い方々は、ここではとんと見かけず、まさ
かとは存じますが、いずこかで、再び修行の道を究められて
いらっしゃるのではないのかなと、思う今日この頃です。


作品名:冥途カフェ 作家名:森 明彦