第四章 動乱の居城より
彼は、にこやかに嗤うと、おもむろに立ち上がった。
先の読めない行動にミンウェイは困惑するが、殺気を感じない相手に何をすればよいのか分からず、ただ瞬きだけをする。
シュアンは緩やかにテーブルを回り、ミンウェイの座るソファーの背後に回った。そっと屈み込み、彼女の耳元に口を寄せる。
「ああ、そうさ。俺は凶賊(ダリジィン)を恨んでいる」
優しく囁くように、シュアンは言った。
ミンウェイの波打つ髪が、シュアンの鼻先に掛かり、炭化した人毛の悪臭が彼の鼻腔をつく。先ほど彼の放った弾丸が、焼き縮れさせた名残りだ。
「凶賊(ダリジィン)は俺の人生の仇だ」
シュアンはミンウェイの髪の中に顔を埋め、低く嗤う。その口元に、狂犬の牙がぎらりと光る。
「俺は、この国から凶賊(ダリジィン)を殲滅してやる」
この凶賊(ダリジィン)の女は、向かってくる者には恐ろしく強いが、傷を持つ者には限りなく優しい。――愚かに、優しすぎる。
冷静な狂犬は、彼女の心に牙を穿(うが)とうとしていた。
作品名:第四章 動乱の居城より 作家名:NaN