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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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女王は見た

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 「あの雪の国」の美しき女王は、城へ帰る道を歩いていた。彼女がふと前方を見ると、自分からそう遠くない距離のところに、大粒の赤いさんごのネックレスのような飾りを施した黒いテンガロンハットをかぶり、赤いマフラーを身につけ、上下黒い服を着た背の高い男が歩いていた。
(誰かしら。あの居城は私とごく親しい人しか知らないはずなのに)

 不審に思った女王は軽く深呼吸をすると、その男に声をかけた。
「あの、私の城に何か用かしら」
 男は彼女の声に気付き、立ち止まって彼女のほうを向いた。彼は色白で顔にはそばかすがあり、女王とさほど変わらない年齢に見える。彼は帽子を脱ぐとそれを胸に当て、軽く頭を下げた。女王のほうも、軽い挨拶の仕草をした。しかし、その青年への疑問はすぐには晴れなかった。そこで、もう一度彼に質問をした。
「質問に答えて。私の城に何か用があるの?」
 青年は、再び女王のほうを向くと、不敵な笑みを浮かべて
「あんたの城には用はねえよ」
 と答えると、すぐに前方を向き、すたすたと歩き始めた。

 彼の態度に、女王は余計に困惑した。いったいこの人はどこから来たのか、どうしてこの道を通っているのか、そして何がしたいのか……彼女の脳内は疑問で埋め尽くされた。あれこれ考えた末、女王はひそかに青年の後を付けた。
(私の城に用がないとすれば、彼はこの山頂に用があるのかしら)
 しかし、女王の居城のある山の山頂は、断崖絶壁と言うべきもので、気の弱い者ではそこで直立することさえ満足にできない。さすがの女王の頭でも、彼の行動の意図を完全に解することはできなかった。

 考えているうちに、もしかして、この人は山頂もしくはこの山道のどこかから飛び降りる気なのかもしれないという仮説を立てた。最初は放っておこうと思ったが、もしかするとこの人もいつかの自分と同じように死にたいぐらいの悩みを抱えていて、最悪の結論を出そうとしているのかもしれない。そう推測した女王は、雪の中、ドレスの裾を両手でつまんで足を速めた。


 真横に女王の居城が見える地点で、彼女はようやく青年に追い付くと、静かに、しかし強い調子で話しかけた。
「ねえあなた、冷静に考えてみなさい。生きてさえいれば、あなたの仲間に必ず出会えるわ」
 彼は懐かしそうな顔をして言った。
「仲間ならいたぜ。数え切れねェぐらいにな」
「だったら、なおさらよ。あなたがこのまま良くない道を選べば、彼らは必ず悲しむわ」
 そのとき、青年の顔から表情が消えた。10秒間ほど沈黙に包まれたあと、彼は口を開いた。
「…それは、わかってた」
(…?)
 意味のわからない返答を繰り返すこの青年とは、会話がかみ合いそうにない。女王は、落胆と失望の入り混じったため息をついた。


 と、その直後、女王は信じられないものを目にした。何と、黒いテンガロンハットの青年が両手両脚を大きく広げ、縦棒を握るようなアクションをすると、彼の両手のひらから炎が出現し、それが上下に長く伸びると、天まで届く中くらいの太さの2本の炎の柱に変わった。これには比較的落ち着いたキャラの女王も仰天し、両目をこすってその驚くべき光景を見つめた。
(何、炎の柱…!?この人、いったいどんなトリックを使ったの)
 そうしている間に、今度はその2本の柱の間に、等間隔に横棒を描くように炎の線が何本も現れた。そう、彼は炎の梯子を造ったのだ。

 女王は、青年と炎の梯子を見てしばし呆然と立ちすくんでいたが、はっと我に返った。
(火を消させなければ。地面の雪が次第に溶けて、やがてなだれが起こってしまう!)
 そう言いたくても言えずにいる女王をよそに、青年は炎の足場に手足をかけ、梯子を上り始めた。これには女王もついに声を張り上げた。
「危ない!おかしなまねはやめて、すぐに下りてきなさい!そして火を消しなさい!」
 しかし、青年は
「これでいい」
 と言ってから黙々と梯子を上り続け、下りてくる気配はない。女王は苛立った顔つきでため息をつくと、改めて大声で言った。
「いいはずがないでしょう!すぐに下りてきなさい!いろいろな意味で危ないわ!!」
 結果は先刻と変わらない。我慢の限界を迎えた女王は、ついに炎の梯子に向かって「能力」を発揮した。彼女のこの「能力」は、国内で無敵とさえ言われている。

 ところが、彼女の放った「能力」は、炎の梯子を凍結させることができず、それを通り抜けただけだった。
「うそよ、凍らないなんて!」
 そのとき、青年は足場に手をかけたまま、下方にいる女王に向かって、得意げな顔で
「やめときな」
 と言った。すると、女王の体は一度ビクンと動き、全身がしびれた感じがした。次の瞬間、彼女は力なく倒れた。青年は炎の梯子を上り続け、やがて彼の姿は地上からは見えなくなった。

 ― その夜、女王は一睡もできなかった。


 後日、女王は自分の居城を訪れた妹君に、あの不思議な出来事を話した。彼女が話し終えると、妹君は真っ白な顔で姉を見つめた。
「あら、どうかしたの?急におびえた顔をして」
「実はね、友達の山男さんから聞いた話なんだけど…」
 妹君の話を要約すると、あの日女王が見た青年は、某大海賊の一味の実力者であり、昔起こった大戦争で兄弟愛の果てに命を散らした海賊であることがわかった。
「じゃあ、あの日私が見たものは……」
 妹君は、真っ白な顔のまますばやく二度うなずいた。


 女王は、下を向いて頭を抱え、城が壊れそうなぐらいの悲鳴を上げた。
作品名:女王は見た 作家名:藍城 舞美