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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 第三章

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《第三章 ようじんぼう》




黒鉄の虎造は数十人の乾分どもを引き連れて掛川に凱旋すると、大親分・口縄の拓蔵の葬儀を盛大に執り行った。
縁故の親分衆が集まる葬儀の席で、虎造の二代目襲名の披露が行われるかと思われたがそうはせず、虎造は拓蔵の実子・定吉を跡目に据え、自らは後見役に納まることを発表した。
鮮やかな身の処し方であった。実績実力とも組内随一でありながら、反発と嫉妬心を露わにするものたちの勢力も存在する。
虎造は無用の軋轢を避け定吉を立てた。その定吉はまだ五才の童子である。


「まったくたいした男だ。虎造というやつは」

掛川の城下町の居酒屋で薄汚れた“野良犬”たちが酒を呑んでいた。
虎造に敵対する引佐の松五郎についたばかりに、後金の十両をもらいそびれた、例の用心棒三人組である。
三人は自然と漏れ聞こえてくる虎造の噂と評判を酒の肴にして、ちびちびと杯を重ねている

「それよりもオレは、あの用心棒が気になってしかたがない」

頬骨の張った“野良犬”がいった。名を塚田伝兵衛という。

「おお、オレもだ。最初はオレたちが押していたのに、あの男の登場で潮目ががらっと変わりおった」

眉間に薄く傷のある“野良犬”――岩尾重蔵が同調する。

「……ふむ。何者だろう。名のある剣客ならば、ヤクザの用心棒などに成り下がっているわけはないのだが……」

偏平な鼻と分厚い唇が特徴の“野良犬”――梶木源内が自嘲めいた口調で猪口をあおる。

「三人同時に斬りかかっていっても勝てたかどうか……」

「まあ、間違いなくこのなかのだれかは生きてはおるまい」

「そんなことより……」

らちもない塚田と岩尾のおしゃべりを遮って梶木が本題に入った。

「これからどうする?」

前金の十両を受け取って江戸から買われてきた身だが、このまま江戸にもどっても職はない。江戸についたとたん、持ち金はそこをついているだろう。

「うーむ。そこだ」

岩尾が腕を組んで下を向いた。と、そのとき――

「これからどうすればいい?」

隣の卓でまったく同じ言葉を漏らしている男たちがいる。
町人というよりは百姓ふうの野暮ったい身なりの男たちだ。数もこちらと同じ三人組だ。

「おまえが博打なんかに手をだすから」

「だってあのさむれえたち、十両程度では助太刀などできぬというから……」

「だからって博打に手をだすことあんめえ!」

「太一郎さん、どうすれば……」

二人から太一郎と呼ばれた男は岩尾と同じく腕を組んで下を向いた。

「もし……用心棒をお探しか?」

梶木が岩尾と塚田に目配せすると、三人は銚子と猪口を持って太一郎たちの卓にごっそり移動する。

「我らでよければ助太刀するぞ」

「お侍さんたち、やっとうの方は使いなさるか?!」

太一郎が身を乗り出してきた。

「むろん、我らは江戸でも名の知れた剣豪。ひと呼んで“地獄の三羽烏”よ」

ここはウソでも自信を見せつけることが肝心だ。
梶木がぐいと胸をそらす。
“野良犬”がいつしか“烏”に化けていた。