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松浪文志郎
松浪文志郎
novelistID. 62568
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ふうらい。~助平権兵衛放浪記 第二章

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《第二章 けだもの》




鉢巻きに襷掛けのヤクザたちが河原でぶつかりあっていた。
お互い、六、七十を超える大人数を擁しての激突は、出入りというよりも合戦に近い。
里嶋庄八郎は味方の手勢が押されそうになるのをみると、崩れ出した左陣の一角目指して土手を駆け降りた。

抜き放った白刃が陽光にきらめいたかと思うと、敵のヤクザ者どもの首や手足が宙に跳ね飛ぶ。
長脇差を棒切れのように振り回すヤクザたちとは技量が違う。
里嶋はその昔、下総の松戸にある浅利又七郎の道場で次席師範代を務めたほどの剣客であった。
その剣客がいまではヤクザの用心棒にまで成り下がり、助っ人として駆り出されている。
瞬間、吊り上がった口角は自嘲の笑みか、虚空に血の虹を描きながら里嶋は敵陣深く進む。

だが、突出しすぎたようだ。たちまち三人の男に前後を囲まれた。
ヤクザ者ではない。里嶋と同じように筒袖に野袴といった格好の侍たちだ。
三人組の侍は敵の用心棒だろう。不精髭を口の周りに散らして、荒んだ目をたぎらせている。

「なかなかやるようだが、三人を一度に相手して勝てるかな?」

たちはだかる前方の男がいった。右手の男と背後の男は刀を中段に構えたまま、じっと隙をうかがっている。

「最初に動いたヤツを斬る」

ぼそり、なんの気負いもなく里嶋が口を開いた。
用心棒たちは互いに目を見合わせた。だれが最初に動くか、まだ決めてはいないようだ。だが、その囮役は確実に死に至るだろう。

――冗談じゃない。おまえがいけ。
互いの瞳がそういっている。用心棒たちは里嶋の三方を取り囲んだまま動くに動けない。
と、そのとき――

「討ち取った! 引佐の松五郎を討ちとったぞーーっ!」

里嶋にとっての味方側の声が響いてきた。

「チッ、これまでか」

雇い主が死んだとあっては、これ以上戦う理由がない。
用心棒三人組は里嶋を見据えたままじりじりと後退すると、脱兎のごとく駆け出した。
その他のヤクザたちもクモの子を散らすように四方八方へと逃げ散ってゆく。
里嶋は小さく息を吐き、びゅっと血振りをくれると、ゆったりとした動作で納刀するのであった。