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脱獄一代

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で、塀の中に舞い戻った俺は懲罰房に数年間移された。その間、誰も口をきいてくれなかった。ははは、だから余計に今じゃ喋りすぎるのかもな。その数年間の間。人間暗闇の中で何もしていないと馬鹿になっちまうことに気が付いた。だから運動するようにした。腕立て伏せと腹筋とを繰り返した。それだけじゃない。暗闇の中でとにかく何かしなければならない。俺は決まった時間に放り込まれる食器の中からスプーンをくすねるのに成功した。どうせ配食するのも囚人だから、甘かったのかもな。いやぁ、スプーンはないかと相当、家探しされたから。配食した囚人も懲罰房に入れられたのだろう。その後懲罰房から解放されたが、俺がコンクリートの壁をスプーンでガリガリ掘っていた跡が見つかっちまって、北の大地の刑務所に移送された。
まぁ俺はそれまで雪なんか見たことなかったからね、驚いたな、あの寒さは。それに聞いてはいたが、世の中にはあんなにも多くの悪党がいるものかね、そうも思った。刑務官の先生はひとことだけ。「穴掘ってもいいが、凍死するだけだぞ。」高倉健の映画みたいな雪の中の原生林に覆われた刑務所だった。作業場も寒くて酷い状況でさ、旋盤回してるやつなんか、寒さに気を取られて指を何本も飛ばしてしまって。だが誰も何も文句は言わなかった。此処は刑務官の先生に逆らったら最後、そんな私刑が待っているか知らなかった。男色の刑務官たちにカマを掘られるか、事故に見せかけて外に放り出されて凍死するか。俺なんか言葉に出なくても、眼付に出ちまうらしくて。飯抜きとかよく虐められたもんさ。家族の面会は認めないし、家族の差し入れなんて全部刑務官の先生が持って行っちまう。で、あぁゆうところには悪の上にも悪がいて。あぁいうのも政治力っていうのかな。囚人仲間から一目置かれている御仁が居てな。耐えきれなくなったんだな、皆が。叛乱を起こすか、全員で脱獄するかって。俺はどっちこっちなかった。正直云えば真面目にお勤めさえすればおまんま食えるからな。お勤めさえ終えればここからは出れる。だが他の囚人仲間にそんなことを言ってみれば、殺されてしまう。そんな異様な雰囲気が立ち込めていた。だから仕方なしに。何処かのスッとぼけた阿呆が「大脱走みたいにトンネル掘ってよ、全員で脱走しようぜ」と持ち掛けると不思議なもので皆がすんなりと同意してしまった。ナチスの収容所から連合軍の兵士が大量脱走するって例の映画だ。俺は前歴が知られてしまっていたので、当然の如く穴掘り、つまりブロンソンだ。雑居房から塀の向こうまでトンネルを掘って逃げ出すってことになった。床板を外し手掘りで縦穴を二メートルほど掘ったがとても柔らかな土で掘りやすかった。そこから塀に向かって横穴を掘り始めた。窓越しから見る限り10m。壁と壁の間には10mの幅の緩衝地帯があるって話だから。その向こうは原生林、5mも出てればいいだろう。てことで都合25mの横穴を掘っていくんだが、何年かかったかな。掘り出した土は便器に流したり、どてらの中にしまって外に放り出して。毎晩コツコツ三時間づつ掘っていた。それ以上掘ると昼間眠くなっちまうからな。不思議なものであそこの囚人200名が誰一人裏切らずに秘密を守って誰も何も言わなかった。そしてある日、誰かのふんどしを細切れにして作った巻き尺で20mを超えた時だった。掘り進んでいた俺の前の地面が崩れ地表が現れた。いや、正確には崖の真ん中に出てしまった。恐る恐る首を出して覗き込むと外壁を通り越したところで、原生林に出たはいいが約3mほどの崖の真ん中だった。俺は肌に触れる外気が気持ちよかったが、中の奴らには危険だと伝えた。だが雪も積もっていることから“大丈夫だろう“と”お偉方“が言うので、作戦は次の新月の夜に決行されることとなった。丁度土曜日と重なり刑務官の半数はバスで実家へと向かった後だった。代々の囚人たちが内密に各房を行き来するために作ってきた仕掛け壁の存在を刑務官の先生たちは知らなかった。もっとも教えるような馬鹿なことをするやつはいない。今夜の当番の刑務官殿に酒を飲ませて酔いつぶれたのを契機に、音もなく壁を開けて囚人たちは俺たちの雑居房に集まりトンネルに入っていった。”元気でな”“達者でな”なんて言われながら、俺はトンネルに入らなかった。最後のヤツがトンネルに入っても俺は見送りもせずに布団にくるまって寝ていた。トンネルが開通した瞬間、俺にとっての脱走は終了していたのかもしれない。翌朝、半狂乱になった刑務官が俺を殴りつけても後の祭りだ。200人の囚人が脱獄したんだから。
ひとり寂しく食堂で飯を食いながら観たニュースによれば半数の100人は凍死してしまったらしい。残りについては捜索中。ほれみたことか!強面の刑務官殿は免職となったそうだ。そして逃げなかった俺は真面目に残りの刑期を務めあげて・・・ところが、だ。なぜか俺は脱走幇助の嫌疑をかけられ更に刑期が伸びてしまった。だが次の刑務所は壁も無ければ、作業もなかった。自然に溢れた南海の孤島だ。所謂、“島流し”って奴だ。

前の刑務所に比べれば、暖かいだけマシだった。だが断崖絶壁に囲まれたこの島に降ろされて。周りを見渡せば日がなボウッと海を見ているだけの腰抜けどもばかりで。そうでもなければ発狂して闇雲に飛び込んで波にその身を断崖絶壁にぶつけられて、粉々にされる若い者たちだ。此処には刑務官もいなければ、監視員もいない。人権保護団体とやらが喚きたてるから仕方なく物資を投下しにヘリコプターが来る。それだけだ。他にルールなんてない。だが不思議なものでこんな状況に置かれるといざこざ自体が無くなる。することもなく、こんなところにいたら日に日に馬鹿になっちまう。そう思いながらもブラブラしていたら南海特有の凄い嵐がやってきて大波が島ごと洗っていきやがった。素人ごしらえの小屋なんて小屋ごと流されちまった。俺はたまたま生き残ることができた。このときばかりは本当に偶々偶然だ。ようやく見知ったような奴らは皆、海に流されちまった。俺は偶々見つけた岩の裂け目から広がる洞窟を見つけてそこを居とした。だがまた嵐が来れば此処は水浸しにされ俺は荒い波に洗い流されてしまうのだろう。安住の地を求めて。いや、此の島には安住の地はない。入り江の波が外洋に逃げだす数を数えてもパピヨンのマックィーンのようにはいくまい。なにせここの崖は深く、しかも切り立っている。となれば、他の方法を探すしかない。俺はその日以来、島にあるココナツの実や葉の繊維を使って何日もかけてロープを編んだ。しなやかで丈夫なロープだ。だが使い方についてはまだ考えちゃいなかった。ただ漠然とロープを編んでいた。時化が続いて雲行きが怪しくなったその日。つまりこの近くに台風が接近しているのだろう。例によって月に一度のヘリコプターが飛んできた。しかも今日は新しい囚人を連れてきたらしく猫の額ほどのヘリポートに着陸した!俺は匍匐前進でヘリに近寄りスキッドタイプの脚に引っ掛けた!奴ら物資をヘリポートに投げ出すとそそくさと機内に戻っていった。さぁ、いよいよ離陸だ!
作品名:脱獄一代 作家名:平岩隆