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レイドリフト・ドラゴンメイド 第30話 召喚されて、され果て

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 チェ連の現代風に言えば、臆病者の城。

 ついさっき、生徒会が守る車列が通った場所に現れた。
 隙間なく黒にぬられた、決して大きくないビル。
 今は遠くから、強力な灯光器に照らされている。
 チェルピェーニェ共和国連邦、マトリックス海南エリアの方面隊司令部。
 ベルム山脈にほられた地下要塞の奥から、レイドリフト・メタトロンが引きずり出した量子世界の中枢。

(カーリ君があれだけ愛着を持っていた大聖堂だ。
 他にも愛していた人がいてもおかしくない)

 その想いがこの場所へ連れて来たのか?
 美を愛する者として、カーリタースには共感、好意さえ覚える。

 だがその反対ベクトルに、生徒会を召喚した科学者たちへの怒りが湧き上がる。 
 チェ連の指導権をうばい、生徒会には一度も姿を表さず指示さえ出さない科学者たちに。

 科学者たちは、無責任にも自分たちの政治問題を縁もゆかりもない他人に押し付けた。
『魔術学園の生徒は強かった。だからこの星の未来を託したのだ』
 そう言い訳するのだろうか?

(オウルロードから聞いたよ。
 カーリ君に吹きこんだとおり、『自分たちは次元を超えた実効支配をしている』論を振りかざすのか?
 そんなバカな話があってたまるか! )

 この星に来た最初の日に、ユウ・メイメイと城戸 智慧どうなった?
 彼らが来ることも知らされてなかった地域防衛隊に、大怪我を負わされた。

(召喚なんて、人のそれまでの生活を無意味なものにして、その後の人生もゴミのように捨てさせる行為だ)

 今まで、何も語りかけてこなかったことに対しても、言い訳するのだろうか? 
『君たち自身が考えることが大切なのだ! 』とか。

(それなら、それでもいいでしょう)

 街を揺るがす戦車の音が、止まった。
 視界のウインドウでも、準備を完了したというチームの連絡が次々に入る。
 連絡はタスクバーとなって並ぶ。
 そしてスタジアムが消え去った時、ついに100パーセントになった。

「全部隊。足並みそろいました! 」
 ワイバーンがそう報告した直後、デットエンドが、達美の兄でPP社のCEOである真脇 応隆が命じた。
『突入! 突入! 突入! 』

 そして、彼らは大通りを疾走する。
 前方にはPP社から、横1列に並ぶ4台の10式戦車。
 その後ろにメイトライ5が並ぶ。
 歴戦の勇士を載せた4台のオーバオックス。
 全て人型のロボットモードになっている。
 その後ろにキッスフレッシュ装甲車の編美専用車。アウグルが乗っている。
 達美専用車は、一番後ろ。
 見届け、交渉してくれるチェ連からの5人の有志も乗っているのだ。

(帰る時期も、生徒会に決めさせてもらいます! )

 突入は、飛びだすワイバーンとドラゴンメイドによって始まった。
 急激な空気圧の変化が、飛行機雲を生むほどのスピード。
 なびかせながらビルを回り、プラズマレールガンを放つ。
 外から見ると窓がないビルだが、実際には壁に薄い部分があり、そこを突き崩すと銃を撃てる窓がある。
 戦国時代の城にある、隠し佐間だ。
 その場所は、目には見えないデコボコとして表面に現れた。
 包囲監視していたチームが、レーダーなどで見つけてくれた。
 そこをプラズマが突き崩す。
 次は、グレネードランチャーでランナフォンを送り込む。

 オウルロードは、瞬時にビル内外の走査を終えて、伝えてくれる。
 それを確認し、真っ先に動いたのはオレンジ色のオーバオックスだ。
 松瀬マネージャーが乗る。
 戦車の間を駆け抜け、正面のドアを叩き割った。

 そのほかのオーバオックスは、ここで装甲としての役目を終える。
 ミカエルが、アウグルが、イーグルロードが、スキーマが。
 メイトライ5の大人組が等身大となって突入する。
 松瀬もすぐ続いた。
 最後にワイバーンとドラゴンメイドが。

 だがしかし、彼らは数分後に同じ道を駆け戻ることになる。
「お医者さん! 来てください! 」
 そう叫びながら。

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 方面隊司令部から、次々に担架が運び出されていく。
 運ぶのは、装備は戦闘を行う社員と同じだが、医療用のゴム手袋をつけたPP社の衛生課だ。
 担架に乗るのは、探していた科学者たち。
 ただし、その様子は普通ではない。
 無表情で呆然としている者。
「早く連れて行ってください! 早く逃がしてください! 」
「このビルを残してはだめだ! ぶっ壊してくれぇ! 」
 さまざまな事を懇願するもの。
 口汚くビルを罵る者もいる。
「ざまあみろ! ざまあみろ! 」
 異常な精神状態なのは明らかで、PP社からの質問にも耳を貸さない。
 暴れる科学者を押さえこむ人手が必要だった。

 一度は突入したメイトライ5は、その様子を遠巻きに見て立ち尽くすしかできなかった。
 風に乗り、科学者たちの叫びが聞こえてくる。
「なんだ、あれ」
 誰ともなく、そういう疑問がこぼれた。
 とてつもない虚脱感だけが、彼らを覆っていた。

 包囲は解かれていないが、他の部隊でも感じるむなしさは同じだろう。

 1号からの連絡が、疑問に答えてくれた。
『ビル内部を調べました。便から栄養や水分を抜き取り、体内に戻す機械を見つけました。
 あれが2か月間も籠っていられた理由ですね。
 点滴で体内に戻すらしい。
 それと、科学者たちから覚せい剤反応を確認しました。これが精神異常の原因ですね』
 説明を聞いただけで、嫌なにおいが匂ってくるような気がするから、不思議だ。

 ビルの前には衛生課のドクターカーが並んでいる。
 白地に赤いライン、赤色灯のついた、救急車でなじみのデザインだ。
 ただしベース車両は、普通自動車の2倍以上の大きさを誇る、四輪の装甲車。
 南アフリカ製の、マローダーだ。
 普通自動車2台をペチャンコにする17トンの重量と、それを行っても問題なく走るタイヤ。
 装甲は二重のモノコック構造で、防弾・耐地雷性能を持つ。
 車高は高く、後ろのドアに患者を担ぎ上げるには踏み台が必要になる。

 中枢ビルには、何一つ防御のための兵器は無かった。
 分厚い壁をくぐると、殺風景な四角い部屋。
 壁沿いにイスと机が並び、人が何人も座っていた。
 頭には、目まで覆う大きなヘルメットをかぶり、そこからコードが壁に繋がっていた。
 ブレイン・マシン・インターフェイス。
 思考を読み取り、機械を操作する技術。その異世界版。
 他にあるものと言えば、食料庫だろう2階と3階へ通じる、建物中央のらせん階段。
 そして、集団を生きたままほったらかしにした時にだけ発する、あの悪臭だけだ。

 また一人、ぐったりした男性が運びだされる。
 髭と髪もだらしなく伸び、その目には生気がなかった。
 上半身には汚れた白いワイシャツ。汗と、食べ物によるものだろうか。
 シャツの胸に、光を反射して金色に光る物があった。
 拡大してみる。
 
 歯車のように、人々の絆ががっちりと組み合わさることを願った、かみ合う2つの歯車。