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春色の約束

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「心配させないでよ! 線路に人が降りたとか聞いて……、電話しても康弘が出ないから、もしかしたらって思っちゃって……。本当に心配したんだからね! ……せっかくの休日なのに、やっと康弘に逢える日なのに。私、何でこんな思いしなくちゃならないのよ!」
 言ってすぐに後悔した。八つ当たりだ。今までの康弘不足による不満が、爆発してしまったのだ。案の定、康弘の顔がみるみるこわばる。
「待たせて悪かったと、慌てて来てみりゃ、何だよ、それ?」
「ごめ……」
「何、愚痴垂れてんだよ? 俺だっていつも栞と一緒にいたいさ。で、楽しみに来てみりゃ、この仕打ちかよ? 俺たち、もう学生じゃないんだぜ? 甘ったれんなよ」
 怖くて康弘を見ていることができなかった。私の靴に涙が落ちていく。
「栞は就職してからずっと変だった。二言目には逢いたい、逢いたいって言うし、そのくせ、一緒にいてもどこか浮かない顔ばっかりだ」
 それは、逢っているときはよくても、すぐにまた別れなければならないから。
「康弘、私のこと、嫌いになった……?」
 やっと声を絞り出した。
 永遠にも感じられる沈黙が続く。
 ふと、康弘が頭を掻く気配が感じられた。彼の癖だ。
 俯いた私の頭に、尖ったようなそれでいて優しげな康弘のため息がかかる。
「その台詞、『嫌いにならないでね』と同義語だって分かっているか?」
 康弘は私の頬を両手で包むと、無理やり私の顔を上げさせた。
「栞がストレス溜まっているのは知っていたよ。だから一度だけだ。お前の阿呆を許すのは」
 ふっと、康弘の周りの空気が変わる。
「俺たちが平日逢えないのは――俺とお前がずっと一緒にいるための第一歩だろ? 栞にそれだけ思われるのは悪い気はしない。けど、俺の相方はそれじゃあ困るんだよ」
「え……?」
「女って安心感が欲しいものなのか? けどさ、これを言うのはそれなりに勇気が要るんだ。言わなくても分かっていると思っていたんだけど……」
 そして、私の耳元でそっと囁く。
 人通りの多いこの雑踏の中で、私の耳は確かにその言葉を聞き取った。

 その日は結局、高層ビルの最上階のレストランへは行かなかった。
 代わりに電車に揺られること一時間。康弘の愛犬タロと散歩をした。

 そして――。
「昨日の今日で、いきなり連れてくるとは思わなかったわよ」と、左手の薬指に綺麗なダイヤの指輪をはめた康弘のお姉さんに意味ありげに笑われたり、いつの間にか康弘の家に私専用の箸や茶碗が用意されていたり……。
 それはまた、のちの話。
作品名:春色の約束 作家名:NaN