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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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黒猫

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 ガードマンから本間の携帯に電話が入った。本間はビールを飲んだ後であった。
「トイレの水が流れているくらい、処置できるだろう」
「出来ませんよ。明日ですと、水道料がだいぶかかりますよ」
「飲んだから、車使えないんだ。女房も出ているから、面倒だな」
「連絡はいたしましたからね」
連絡があった以上、本間はそのままには出来ず、学校まで行くことにしたが、タクシーではかなりの金額になる、それならビールを飲んだ方がましだと、自転車で行くことにした。
 解錠し、玄関に入ると、夏休み中なので、校舎内は澱んだ空気が嫌に暖かく、臭いまでもが動物の体臭を感じさせた。警備装置を解除し、警備会社に電話を入れた。
「本間ですが、ただ今警備を解除しました。要件はトイレの漏水修理です」
「了解です。自分は長嶋です」
 本間は指示された2階のトイレに向かった。まだ10メートルも先なのに、水の音が聞こえた。それだけ夜の校舎は静かなのである。トイレは左右に5室ある。音のする部屋はすぐに見つかった。フラッシュバルブが破損したか目詰まりしたのだろう。和式の便器の故障の大半がこれが原因であった。本間はあらかじめ用意してきたから、5分ほどで修理は完了した。
 校舎は2棟あった。トイレも使用頻度が低いと、却って故障しやすい、本間は念のためにと思い、2号棟のトイレも点検してみようと思った。鼻歌を歌いながら、2号棟に近づくと、人影を感じた。酔っているからかと、確認しながら観ると、教室3クラス分先に人影が観えた。女である。両手で何かを抱えているようであった。
 女子高校であるから、それほど驚きもしないが、この2号棟には警備システムが無いが、本館の管理等に行かれると、システムが作動し、ガードマンが駆け付けてしまう。合宿の生徒には顧問からその注意はしてあるはずであったから、本間は一寸不可解な気もしたが、生徒だろうと思い込むことにした。追いかける気力が無かった。
 本間は女の消えた方向に歩きながら、トイレの確認をすると猫の鳴き声を聞いた。それは、聴きようでは赤ん坊の泣き声に似ていた。点検中のトイレからは、血液の臭いも感じた。ただ、本間は生理の臭いにも慣れていたから、あの生徒は生理だったのかと思っただけであった。
 警備会社に連絡を入れ、校舎を後にしたが、何故か猫の鳴き声が頭の中に残っていた。
作品名:黒猫 作家名:吉葉ひろし