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レイドリフト・ドラゴンメイド 第29話 恨みと走る どこまで

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 どう見ても10代。平均的日本人学生だ。
「私は川田 明美といいます。体育祭実行委員会長です」
 その表情はこわばり、強い怒りが込められていた。
「そこのチェ連人学生に、見せたいものがあるんです」

 一号は、一切私情をはさまない。
「それはできませんね」
 そういった。当然だ。
「彼らには、これから敵中枢への交渉をしていただきます。これから話し合わねばならないことがあるのです」

 明美の顔が悔しそうに歪んだ。
「お願いします! 」

 その時、後ろの建機たちの所から、もう一人の少女がかけだした。
 サラミ・マフマルバフだ。2年A組学級委員長。
 赤くて長い布、ブルカで頭から肩まで覆っているので、すぐわかる。
 能力はシンプルな怪力。
 その脚力で100メートル近い距離を一瞬でやって来た。
「彼女を責めないでください」
 ブルカの隙間から見える、茶色い髪。
 混血の多いアフガニスタン出身らしく、青い吊り目と白い肌で、おとなしそうに笑っている。
「川田さんは、この星にいる間に、おじいさんを失っています」

 その人にはドラゴンメイドもあっていた。
 ずっと寝たきりだった人だ。

 その時、黄色い空気が爆発した。
 明美が、自分とチェ連人を外界からさえぎったのだ。
「士官候補生がさらわれた! 」
 珍しい2号のあわてた叫び。
 天高く伸びた黄色い光の中には、6つの人影が。
 ワシリーとウルジンは、牢獄ごと捕まっている。

 明美は外へ向かうようだ。
 その動きは大蛇にも似ている。
 その周りでは、新たな無数の叫びがあがる。

「わたしが追いかけます! 」
 ドラゴンメイドの背中にジェットパックが。そして金属の羽が広がった。
 その間に病室へのライブ中継を切った。
 ジェットパックを加速させれば、簡単に追いついた。
 だが、明美が人に害を与えるところなど想像できない。

 ダッワーマとクライスの装甲が分割され、配列を変え始める。
 人型に変形しようとしているのだ。
 飛行能力こそないが、格闘戦においてはオルバイファスを凌ぐかもしれない巨人に。

 ところが明美は、2人の変形を機関に窒素を入り込ませることで、押さえこんだ。
 そのまま民衆を避け、スタジアムをでる。
 そして現実世界に降り立った。
「あの炎が見えるでしょ! 」
 明美が指さしたのは、4階から5階建ての、白い漆喰づくりの集合住宅。

「ああ、見える」
 士官候補生たちは、おびえながらも静かに答えていく。
「……見えます」

 1階が店舗として使われる集合住宅も多い。
 元は活気ある街だったことを忍ばせた。
 それを焼く真っ赤な炎。明かりはそれだけ。

 フセン市の繁華街。
 今は、がらんとした道路が伸び、消火栓からの水があたりで濁流を作る。
 ビルの1階部分には、瓦礫が雑多に押し付けられている。
 曲がり角にあるのは、元が何色だったのかもわからないくらい燃えた、真っ黒の自動車。
 カーブを曲がりきれず瓦礫に突っ込んだ、流線型の車。
 プレシャスウォーリアー・プロジェクトに参加したスポーツカーだ。
 
「パレードであたしたちを騙して、あの炎で焼くことはできるでしょう! 」
 シエロ達のまわりには、ひときわまばゆい黄色い光がある。
 完全に拘束するための物だ。
「でもそんな嘘つきは、同じ炎で焼かれることになるわ! 」

 パレード。
 振り向けば避難民の衣服が、これまでのチェ連人らしからぬ、金糸やカラフルな布を使ったきらびやかな物になっている。
 花や電飾で飾った山車や、羽や突起をはでに付けた衣装。
 どこにこんなにあったのか、というほどの楽器。
 昼間はこの通りを埋め尽くしていたそれらは、焦土作戦が始まると打ち捨てられた。
 それをダッワーマのドリルやクライスのカッターが、残骸として押しのけた。

「うそつき・・・・・・確かにそうだ」
 シエロが言った。
「だが、レイドリフト1号が言った言葉を覚えているだろ。私たちにはできることがある。
 それで償いとさせてくれ! 」

 その言葉を無視して、明美が新たな帯状の窒素をのばす。
 帯は瓦礫に中から、大きなスチールのコンテナを引っ張りだす。
 そして中身をぶちまけた。
 でてきたのは多数の銃、手榴弾、弾薬、ナイフ。
 地域防衛隊が隠し持っていたものだ。

「わたしたちの国にはね! 戦争をしないというルールがあったのよ! 」
 叫びながら明美は、帯で武器を広げる。
「家族が死ぬ時、必ずそばにいるというルールもね! 」

 ドラゴンメイドが着地したのはその時だ。
 振り回される帯を見たが、困惑した。
 けん制? 
 こんなものでは、自分は止められない。

「そのルールなら承知している!
 だが、こんなことをして何になるんだ! 」
 牢獄の中で、ウルジンが叫んだ。
 涙はもう枯れ果てたのか、泣いてはいなかった。

 金色の帯は、変わらず武器をかき回している。

「ねえメイミ、私たちがルールを破っては――」
 言いかけたドラゴンメイドの顔に、新たな帯が飛びかかってきた。
 バックステップして避けた。

「何がルールよ! 」
 明美は振り向かずに叫んでくる。

 ドラゴンメイドはなるべく明るく、たいした事ではないように話してみた。
「政治的信条を話しても、相手との違いがはっきりするだけ。ともいうよ」

 それに対する返事は、意外な、ひそやかな声だった。
「知ってるわよ。そんなの」
 そして改めたように、大きな声で叫ぶ。
「だったら、私たちのルールが歪んで伝わるのは許せない! 」

「人には、そこで生まれ育った以上、必ず考える一般論という物があるそうね!
 チェ連人のは何? どんな小さい子にも命の危険を感じること? 」
 明美の意識が、チェ連人に向いた。

「ち、違う。子供はどこででも守るべきものだ」
 そう答えたのはカーリタースだが、それで満足する明美ではなかった。

「違うと言うなら長生きしてみせろ! 」

(やっぱりそうだ)
 ドラゴンメイドには、明美の行動が隙だらけにしか見えない。
(まさか、時間稼ぎ? 何か考えがあるの? )

 その時、ドラゴンメイドは見た。
 ぶちまけられた武器の中から、小さい物が浮かび上がるのを。
 それが5つ。2号の牢獄にとらわれていない3人の袖口に入っていく。
 あの小さい物はナイフと、おそらくピストルだ。
 弾倉には6発程度の、護身用小型銃。

「突っ込むぞー! 」
 その時、ドラゴンメイドの後から少女の声がした。
 サラミの声ではない。
 同時に聞こえるのは、風を切って跳ぶ音。

 振り向くと、体全体で手をまっすぐこちらに押しだしたサラミが見える。
 それと、頭上を飛び越える人影。
 頭上の影には、人の背丈ほどもある巨大な十字がくっついていた。
 十字が黄色いエリアに触れた。
 それだけで十字は、消しゴムで字を消すよりもあっけなく、黄色い窒素を消し去った。
 痕跡さえ、のこさない。

 十字を振るい、サラミに投げ飛ばされてきた人は、ふんわりと風船の様に降り立った。
 それは黒髪をポニーテールにした女子高生。
 白 明花(ペク ミンファ)