小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

SPLICE ~SIN<前編>

INDEX|2ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

本の種類は『天空と大海の大陸』のものに偏りはあるもののバーカンティンのリハビリにも丁度良い感じだったのだ。
膨大な知識量を有した前世。
その記憶を取り戻したとは言え、表に出てくる記憶は主に普段の生活やスプライスとともにいたことで、普段の生活の中では使用しないような知識については引っ張り出してくるのに一苦労なのだ。
前世と違い今は一応普通の人間だから。
当時も思ってはいたが、前世で持っていた『知識』は自分の中にあったものではなく、世界に散っている『情報』が自動的に自分の中に入ってくるようになっていただけだとおもう。
個々人のプライベートな情報はあまり知らなかったが、それは不要だったのだろう。
前世では人との関係よりも自然界的な世界との関係が深かった。
そして世界中に散る情報も一度自分のうちに入ってくれば蓄積される。
その蓄積された分の情報しか今引っ張り出してくることが出来ないが、それでもその生きてきた年月を考えただけで気が遠くなる。
全てを引っ張り出すことは出来ないだろうが…少しでも多くの情報を自分の中から引っ張り出して来れるように整理するには、様々な種類から始まるこの本の量は手助けになった。
(この文字は読めるな)
現生では触れたことも無い文字だ。
(この本は…これもいける)
(これも大丈夫だ)
結果としてこの家にある本は全て読めることも分かった。
あまりにも専門的過ぎて細かいことや前世で触れていなかったのであろう事柄は分からないが、この家に有る本の内容も大体のところは知っていることであることもわかった。
まだ手をつけていないものも多いが…


「んー、こんなもんで大丈夫だと思うな」
家の中を一通り回ってブレースはあっさり告げた。
「そう?」
本当にざっと回っただけで不安の残るスプライスにブレースは「んー…」と言おうかどうしようか迷うことがあるようだった。
「…これだけ特殊な気配を放っているなら、スプライスを探すほどではないけれど魔法も使いやすいよ」
「『特殊』?」
予想の範囲内では有ったが。
「相当ね。で、ソレに伴って行きたい場所があるんだけど」





ブレースが案内を求めたのは、思ったとおり『禁域』だった。
この禁域には『世界の歪み』があると思われる。
スプライスはそう感じたのだが、実際にソレが『歪み』なのか似ているだけのほかのものなのかはわからなかった。
自身分かっているが、スプライスは「鈍感」なのだ。
その点ブレースは神官として正式に修行した幼少時代に合わせて魔法使いとしての修行も行っていたから人より感覚は鋭い。
丁度ブレースとスプライスを足して割れば一人前だろうか。

「コレは凄いね」
禁域には案内を伴わずに三人だけで入った。
ブレースの感覚があれば迷うことも無いと思ったから断ったのだ。
ブレースは案内を求めたが、結局先導して目的地へ真っ直ぐ歩いていった。
禁域の規模自体は縮小しているようだが気配は濃くなったようで、ブレースに迷いも感じない。気配についてはスプライスも感じた。
二人についてきているバーカンティンは前世ならば真っ先に分かったであろうが、『普通の人間』では『何かを感じる』程度になってしまっている。本当に二人について行くしかなかった。こうなることが分かっていたからついて行くのも辞めようと思ったのだが、スプライスだけでなくブレースも一緒に行こうと言って来たのでついてきただけだ。
二人とも体力もあるしコンパスも長い。
体力もコンパスも、感覚も全て鈍い自分は荷物になると思ったのだが…


「これは『歪み』っていうより穴が開いていたと思うよ」
どうやら中心地近くまで来たらしい時ブレースがため息をつく。
スプライスがうっすら覚えている記憶によると、50年前姉弟に世話になったとき一度カティサークが消えて発見された場所に近い気がする。
「でも、前来た時もこんな感じだったかも」
多少気配は強くなっているかもしれないが。
「…じゃ、そのとき既に『歪み』ではなく『亀裂』みたいな状態だったんだね」
そう言われるとそうだったのかもしれない。
あの時もとてもいやな感じがしたと同時に、それ以前にも感じたことのある『恐怖』に似た感覚が…
「バーカンティン何か思い出さない?」
「!」
ブレースがバーカンティンにかけた言葉でスプライスも思い出す。
あの『恐怖』のような感覚を感じた理由。
「……?」
何を言われたのか分からず眉をしかめるバーカンティンだったが、肌から感じる気配が体内に蓄積されていき感覚が理性にまで達したのか、眉の間が段々開いていった。
「『世界の狭間』か」
あれは恐ろしいほどに偶然の状況が重なった結果の出来事だった。




スプライス達は以前この『世界の歪み』に関して対処している時期があった。
正確にはスプライスたち、では無く前世のバーカンティン達だ。
スプライスやブレースはソレについていただけ。
数多くの『歪み』、場合によっては発展してしまった『亀裂』『穴』などにも対した。
そのなかで一度だけ、バーカンティンが穴に飲まれてしまう出来事があった。
飲まれかけたことは幾度か有ったが、実際に飲まれたのは一度だけだ。
元々穴に飲まれては戻って来れないと周囲に警告していたのはバーカンティン自身だから周囲の衝撃はいかほどだったのか。
ただ、不思議なことも起こった。
バーカンティンと入れ替わるように、異質な気配をまとった者がバーカンティンのいた場所に現れたのだ。
「穴の向こうには別の世界がある」
と、はっきり認識したのはこの件が有ったからというのもある。
そして、その人物がバーカンティンと入れ替わった経緯というのも偶然に偶然が重なったようで…
ちなみに言葉は通じないからブレースに魔法で意思伝達を頼んでいた。またはバーカンティンと入れ替わったせいなのか、ブリガンティンがわずかながら意思伝達が出来た。
その後50日ほどして、バーカンティンは入れ替わった人物と入れ替わり戻った。

その、戻ってきた時にバーカンティンは言ったのだ。
「向こう側の世界は一つではない。『ハザマ』の空間があって無限に意思が渦巻いている。今回は偶々その世界のうちの一つと繋がっただけだ」
ちなみにバーカンティンがこの世界の戻れたのは、バーカンティンがこの世界と特別強い結びつきをもっていて、入れ替わった相手も同じだったからだ。
行おうとしていたことも同じだった。
二人とも己の世界の秩序を保とうと『歪み(この場合は穴だった)』を補正していた。
それもすでに幾箇所も実施済みで、歪みに関する情報が体内に蓄積されていて…


「そういえばあの時俺と入れ替わったという者の情報も一部俺に入ってきた、と言ったか」
記憶を掘り起こしてそんなことを思い出した。
ただ、あの記憶に関してはこの世界の情報ではないから他の情報に上書きされて忘れかけている部分もある。
バーカンティンにしては珍しい現象なのだが、この世界との結びつきがそれほど強かったのだという証明にもなった。
「あと『ハザマ』のこととか」
ブレースが聞きたいのはソレらしい。
「『ハザマ』自体はただの空間で意志を持っていないが、方々の世界の意思が流れたり溜まったりしているようには感じた」
作品名:SPLICE ~SIN<前編> 作家名:吉 朋