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力のある父と負けん気のある息子

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結婚相談所に入会して婚活中の彼女のもとに、お見合いの申し込みが届いた。それも、カウンセラーからの、「某市の市長さんの息子さんで、お医者様ですって! しかも、まだ三十なのにものすごい貯金額! セレブの仲間入りですよこれ!」という大プッシュとともに。
 彼女は期待と緊張を持ってスマートフォンから相手の男性のデータを見て、某市が少々遠い点その他に戸惑いを覚えつつも、会うだけ会ってみようと決意した。

 そして、お見合い当日。駅前のホテルのレストランに現れた彼は、写真のとおりの引き締まった顔立ちに、やわらかな微笑を浮かべていた。
 無難な挨拶をしばらく交わした後で、釣り書を見ながら彼女が彼の学歴に触れると、彼はこう熱弁をふるった。
「確かに僕の父の力はすごいですが、僕は僕自身の努力を見てもらいたいです。国会議員の重鎮先生ならどうだか知りませんが、父が長年市議会議員をやってそれから市長をやっても、旧帝国大学の医学部に裏口入学させる力なんてありません。僕は平日も週末も努力をして……」
 続けて、釣り書を見ながら彼女が彼の貯金額に触れると、彼はこう熱弁をふるった。
「確かに僕の父の力はすごいですが、僕は僕自身の努力を見てもらいたいです。釣り書に載っているその金額は、僕個人の資産です。僕が高校生の時に父は五十万円を僕に渡して、『おまえの力で増やしてみろ』と言いました。その後、株とFXでこの金額まで増やしたのは、ひとえに僕の力です。研究が足りなければたちまちに無くすものを、僕は研究に研究を重ねて……」
 続けて、釣り書を見ながら彼女が少し考えていると、彼はこう切り出した。
「きっと気になさっているでしょうことについて……一六〇センチ台という僕の低身長と、若禿についてお答えします。確かに僕の父の力はすごいですが、僕は僕自身の努力を見てもらいたいです。子供の頃の僕は力のすごい父から頭を叩かれるたびに身長が一メートルは縮み、衝撃で毛髪も全て抜け散りましたが、僕の頑張りによってこのレベルまで盛り返しました。……すみません、今のは笑って下さらないと困ります」

【完】