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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Hidden swivel

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 押村忍。通称『押忍』。名が体を現すとはまさにその通りで、押村は体育会系の面倒な先輩だった。新入生歓迎会で初めて話した時点で既に嫌になったが、二回生に上がれば相手は卒業すると安心していたら、まさかの留年をしでかして、今もこのキャンパスをうろついている。島内は、自分が所属する自動車部のマネージャーに、男を見る目がないことを何度も嘆いた。付き合っているのをいいことに、押村は自動車部のガレージにも入り浸っていたし、ジムカーナに出るときはマネージャーと一緒についてきた。油圧ジャッキのように場所を取る存在。油圧ジャッキと大きく違うのは、押村には車を持ち上げる能力はないということ。
「もう、慣れたろ?」
 島内は御池にそう言ったが、その言葉の半分は自分にも言い聞かせていた。押村のいいところは、面倒見がいいということだ。そう思ったところで、首に太い腕が回された。
「よう、シマ!」
 噂をすればだ。島内は顔をしかめながらうなずいた。そして『面倒見がいい』というキーワードを、頭から消し去った。
「うぃっす」
「御池、死にそうな顔してんなお前」
 ヘッドロックを解いた押村は、御池の頭をくしゃくしゃにしてから、隣に腰を下ろした。御池は肩をすくめながら、愛想笑いを押村の腹の辺りへ返した。押村は身長百八十センチ、八十キロの大柄な体格で、ひと回り小さく見える島内と御池からすれば、二人がかりで襲い掛かっても倒せそうになかった。
「二人さ、時間ある? バイトがあるんだけど」
 押村はそう言って、辺りをきょろきょろと見回した。島内は、はっきりとため息をついた。押村の言うアルバイトは、ろくな仕事がなかった。引越しの手伝いだったり、壊れた車の修理だったり様々だが、いざ現場に着いてみると、引越しなら極端に前の道が狭かったり、壊れた車なら、その壊れ方が尋常じゃなかったりと、必ず裏がある。ただ、支払いは確実だし、結果的に割りは良いというのが救いだった。押村は、二人が黙ったのを自分が話す番が続いていると勘違いした様子で、続けた。
「白のギャラン。ナンバーもついてないやつがずっと空き地に停まってるのを見つけたんだ。お前ら目が利くだろ。動きそうかどうか、確かめてきて欲しいんだ」
「空き地って、人の家の近くにあるんですか?」
 御池が墓穴を掘った。それは、やりますと言っているのと同じだった。島内がコーヒーをひと口飲んでいる間に、押村の顔は笑顔に変わっていった。
「その通りだよ。一回前を通ったけど、隣合わせの家も空き家ぽかったけどな。田舎の田んぼばっかりある道に建ってる」
 御池が図らずも承諾してしまったせいで、島内は断るきっかけを失ってしまっていた。しかし、押村は基本羽振りがいい。島内の真面目な顔を見て、押村は指をピンと立てた。
「後払いで一万ずつ。見に行くだけだぜ」
 島内は、後払いの理由を考えた。押村はおそらく、ギャランを盗むつもりなんだろう。それがうまくいけば、一万円ずつが晴れて支払われる。
「シマ、車好きなんだからうってつけだろ」
「まあ……」
 島内は小さくうなずいた。ギャラン自体は好きな車ではなかったが、ナンバーが外れているからといって、動かないということはなさそうだった。少し下を覗き込んで目立った不良がなければ、どうにかなるだろう。
「よっしゃ。後で地図送るわ。早めの報告を待ってるぜ」
 押村はそう言って、立ち上がった。別のグループに割り込んでしばらく話し、食堂から出て行く後姿には、五回生ならではの貫禄と、厚かましさが混在していた。

【二】 二〇一七年 二月一日 午後四時

 神沢頼子と織島加世は、中学校時代を共に過ごした。二十一歳で、やや地味な神沢に対し、織島は垢抜けていて、気さくな性格だった。客の少なくなる夕方の時間帯を狙って訪れたカフェは、ソファの席が空いていて、人ごみが苦手な神沢にとっては快適だった。
「頼子、ここがいきつけなの?」
 織島は、神沢が提案したこのカフェを、まるで異世界に連れて来られたようなもの珍しさで見回した。
「空いてるときは、ここで本を読んだりしてるよ。店員さんには中々覚えてもらえないんだけどね」
 神沢はそう言って、控えめに笑った。久々に会わないかと誘ったのは、織島の方だった。動くのが少し億劫だったから、自分の家に近いこのカフェを選んだ。神沢はそのことに少し罪悪感を感じながら、チーズケーキが運ばれてくるのを待った。ひと口食べてコーヒーを飲めば、罪悪感も一緒に洗い流されるに違いない。
「久々だよね」
 織島はそう言って、棚から取ってきた雑誌をぱらぱらとめくった。その仕草に、特に意味はない。中学校時代なら、神沢も同じような仕草で雑誌を読んだりしただろうが、今は、二人の態度には接点が存在しないぐらいの隔たりがあった。一年ぶりの再会なのだから、無理もなかった。織島は雑誌を閉じた。同時にチーズケーキが運ばれてきて、デミタスカップに満たされた濃いコーヒーもついてきた。
「コーヒーと一緒に食べるんだよ」
 神沢はそう言って、織島は言われたとおりにひと口食べて目を丸くした。
「おいしい」
「でしょ」
 神沢は笑って、初めてこの再会に温かみを感じた。中学生のときも、こうやってカフェで話しながら、ケーキの味に目を丸くしたり、他愛もない話をしたり、同じようなことをしていた。織島はしばらくケーキをつついたあと、携帯電話を取り出した。
「私、最近お寺にハマっててさ」
「そうなんだ」
 神沢が言うと、織島はスマートフォンの画面をひっくり返して、神沢にも見えるようにした。
「次はここに行こうと思ってるの」
 神沢は、その地名と今いる場所とを、頭の中で線で結んだ。そして、言った。
「地元、通るじゃん」
「そうなの」
 織島はそう言って、スマートフォンの画面をせわしなく動かしながら、写真を何枚か神沢に見せた。
「こんな感じ」
「すごいなあ。加世ちゃん、昔から調べもの得意だったもんね」
 神沢は、そう言ってケーキをひと口食べた。コーヒーは、何も洗い流さなかった。織島はスマートフォンを自分の側に向け直して、言った。
「週末あたり、行こうと思ってるんだ。ドライブがてら。よりちゃんもどう?」
「いいよ。土曜だよね?」
 神沢はうなずいた。二十一歳になったばかりだった。車の免許も取ったばかりで、運転は危なっかしい。織島は笑顔になって、神沢の心配を見透かすように言った。
「大丈夫。私結構運転好きだし、任せて。地元にも寄ろうよ」
「うん、そうだね」
 神沢はそう言って、コーヒーをひと口飲んだ。約束が形になったことで、心が落ち着きを取り戻していた。土曜日、織島の車でお寺へ。それは、自分の足ではまず行かないような場所だった。


【三】 二〇一七年 二月一日 午後八時
作品名:Hidden swivel 作家名:オオサカタロウ