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同調率99%の少女(13) - 鎮守府Aの物語

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--- 6 まとめ



 川内たちが出て行った後の執務室、那珂は秘書艦席に座り、カリキュラム調整の作業を再開していた。すでに17時を回っている。那珂はさきほどの川内と神通の運動神経の違いを頭に浮かべていた。ハッキリ言って全然違う。凄まじく違う。

 次に提督が言っていたことを反芻する。
 艤装は腕力や俊敏性は増すが、基礎体力や持久力は増えない。艤装を装備して同調すれば大抵の作業はその超絶パワーアップした身体能力でもってラクラクこなせる。それは那珂自身、これまで経験ですでにわかりきっていた。
 もちろん運動神経がよい人間なら同調後の能力は比例して増すので、川内と神通では同調後にも差が出ることが予想される。ただそれでも普通の人間を超える能力を得られるので、瞬発的な行動では神通でも問題ないとふむ。しかし彼女に問題なのは、基礎体力が川内はもちろん那珂自身にも劣る点。川内が最終的にこなした運動量は、実のところ那珂自身でも問題なくこなせる量だった。それが神通は最初の走り込みの途中で限界を迎えてしまったのだ。

 那珂はそこが大いに気がかりだった。

 同調した後は地味に精神力も要する。ネガティブなことを考えすぎてたり変に気を散らしてしまえば同調率は低下し、艤装をスムーズに扱えなくなる。地上とは勝手の違う水上で問題なく動けるだけの体力とバランス感覚、そして同調率を保つための精神力。
 軽巡洋艦川内型担当となった那美恵、流留、幸と、駆逐艦白露型担当となった皐、時雨、夕音、真純たち。学年的な能力差もあるが、軽巡洋艦と駆逐艦では、その運用の難易度も違う。艦娘の全ての艦種で同じように求められるわけではないが、艦娘としての必要な能力としては基本的な前提条件は同じだ。
 川内型は特に他の艦娘の艦種では行えないような細かく自由自在な動きが行える構造の艤装になっている。ゆえに外装が少なく、身軽さ重視となりその分防御性能が低い。カバーするのは装着者の身のこなし、バランス感覚。同じ軽巡洋艦でも特に必要となる。
 那珂こと那美恵自身は元々の身体能力やバランス感覚からして川内型艤装の艦娘には最適だった。

 自身の例だけでは偏った見方になってしまうが、今はそれしか判断基準がない。データが必要だと判断した。
 神通には基本訓練中、メインの訓練に支障が出ない程度に適度な体力づくりを心がけてもらう。その上で同調し、水上移動を試してもらう。それで二人の感覚をつかむ。当面はそれが優先だ。川内にはいきなり身体で覚えさせてもいいだろう。その間神通には各装備の座学やシミュレーションでとにかくイメージを掴ませる。その後実技たる実際の訓練に臨む。デモ戦闘および演習で締めだ。

 那珂の頭の中では二人の訓練方針が固まってきた。一度水上移動までをさせてテスト、その後いきなり実技。川内は座学は苦手そうだったので開いた時間にしてもらう。
 二人の訓練終了日には差が出るだろうと予想したが、那珂は多少はそれも仕方ないかと考える。

「提督、川内ちゃんと神通ちゃんの訓練の方針決めたよ。聞いてくれる?」
「ん?あぁ、いいよ。」
 那珂は秘書艦席から立ち、考えとカリキュラムの資料の2つを持って提督との打合せに臨んだ。彼女から事細かく訓練の流れを聞いた提督は、那珂を褒めながらその内容を承諾した。

「なるほどね。那珂は二人のことよく見てるんだなぁ。さすが生徒会長、感心するわ。」
「エヘヘ〜もっと褒めてもいいんだぜぃ。ただ、どのくらい想定とズレがあるかが心配なんだよねぇ。」
「うーん。まぁそれは仕方ないさ。君は訓練の指導役は初めてだし、艦娘に訓練の指導や監督を任せる事自体、うちでは初めてだ。」
 那珂はコクリと頷く。
「今回の君のやり方がうちのやり方のよいベースになれればと思ってるから、ズレとかはちゃんとメモに残した上で進めてくれ。工廠は関連設備はいつでも、使えるように、俺から話を通しておくよ。」
「うん。お願いね。」

 提督から承諾を受けた那珂は思い切り背伸びをして一息つくことにした。
「ふううぅーーん!! あー、疲れた。二人とは別の意味で疲れたよー。」
「ご苦労様。精神的に疲れたかな?」
「そーだねぇ。提督にマッサージしてもらおっかなぁ〜?」
「……精神的に疲れた人をどうマッサージしろっていうんだよ。」
 提督からのツッコミに笑みを浮かべて那珂は返す。
「それはもー、あたしが喜怒哀楽全部表現できるようなデートしてくれればいいんですぜ、旦那!」
「お前……それ単に自分の欲望まんまじゃないのか……。」
「エヘヘ〜」

 提督と二人きりの会話を楽しむ那珂。艦娘部の設立に奮闘し始めてからなかなかできなかったことなので、那珂は若干の気恥ずかしさを感じるも、提督と話す喜びによる気持ちよさと楽しさのほうがはるかに勝っていた。
 その後も雑談を続け、気が付くと18時近くになっていた。

「お?もうこんな時間か。君はそろそろ帰りなさい。もうやることないだろ?」
「うん。そーだねぇ。……提督は?」
「俺明日一日中会社でこっちには来られないから、もうちょっとやること済ませてから帰るよ。」
「えっ、明日会社なの? ……そっか。」
「うん。だから……ほらこれ。渡しておくよ。」
 提督はしゃべりの途中で机の引き出しを開けて何かを取り出し、那珂へ向けて手のひらをつきだした。手の平には鍵が乗っかっていた。

「これって?」
「本館の鍵渡しておくよ。スペアキーだから気にせず持っていてくれ。君なら失くしたりしないだろうから心配はしてない。ちなみにこれ持ってるのは他には五月雨と明石さんだけ。二人が来てない時とか、それ使って入っていいよ。」

 那珂は提督の手のひらにある鍵を掴んで自身の手に収めた。提督から鍵をもらう、それは信頼の証でもあった。喜びのあまり顔が素でにやけそうになるがなんとか抑えて平静を保つ。

「おぉ〜鎮守府の鍵!なんか男の人からもらうと、同棲って感じでおっとな〜!通い妻的な?」
 妙な感想を口にする那珂に提督は苦笑しながらツッコむ。
「なんちゅう例えだ……。ともかく、五月雨が帰ってくるまでか訓練期間はそれ渡しておくから、自由に鎮守府に来てくれて構わないからね。俺も会社の方の仕事の都合で来られない場合もあるだろうし。」
「はい。りょーかい。大切に使わせてもらうよ〜。」
 那珂は鍵をぎゅっと握りしめ、もう片方の手で提督からカリキュラムの資料を受け取り、踵を返して執務室の出入口のドアへと歩いて行った。