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あの日、俺はヒーローを想うヒロインに恋をした。

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文化祭

 文化祭の季節がやってきた。
 俺のクラスは男装・女装喫茶をやることに決まり、何故か俺が女装することになった。
 級友達に強引にメイド服を着せられ、カツラを被せられ、メイクを受けた俺は鏡を見て絶句する。

「すげーな波多野、どっからどう見ても女の子じゃん」

「光義だからみーちゃんか?みーちゃん、か~わ~い~い~」

「……みーちゃんって言うな。可愛いとか言われても嬉しくねーよ」

 顔をひきつらせながら級友達を睨み付けると、級友の一人が笑顔で言う。

「文化祭当日は波多野にはその格好で接客をして貰うわよ」

「……え……嫌なんだけど」

「接客をし・て・も・ら・う・わ・よ?」

「……ハイ」

 姉御肌の級友に逆らえず、俺ははあ、と息を吐いた。



「文化祭は波多野先輩のクラスでは何をやるんですか?」

 食堂での昼食時に小糠が問い掛けてきたため、俺は少し考えて答える。

「喫茶店をやるぜ」

「喫茶店ですか!私、文化祭当日に波多野先輩のクラスの喫茶店に行ってもいいですか?」

 ……小糠には、小糠にだけは、俺の女装は見られたくない。

「駄目だ」

「えっ……」

 小糠が悲しげに目を伏せたため、俺は内心で焦る。

「そ、そんな顔すんなよ……あー、午後ならいいぜ、来ても」

 俺が接客をするのは午前中だけだから、それなら俺の女装を見られることはないだろう。

「いいんですか?ありがとうございます!」

 小糠が笑ったため、ホッと安堵する。

「小糠のクラスは何をするんだ?」

「私のクラスはお化け屋敷をやるみたいです」

 お化け屋敷か……まあ、定番だな。

「みーくんのクラスは演劇をやるみたいで、みーくんが主役をやるみたいです」

「そうなのか」

 主役に選ばれるなんて、流石、ヒーローだな。

「みーくんがどんな演技をするか楽しみです」

 わくわくといった様子の小糠に、何だか面白くなくて眉を寄せると、「あ!」と小糠は声を上げた。

「波多野先輩、ステージに参加してみたらどうですか?」

「ステージ?」

「はい。明日までにエントリーすれば文化祭当日に体育館で歌ったり演奏したり出来るみたいなんです」

 つまり、ライブが出来るってことか。
 ライブか……と他人事のように考えていると、小糠が両手を握りしめ、目を輝かせる。

「波多野先輩の弾き語りはもっと沢山の人に聴いて貰うべきです!」

 俺は目を見開いて小糠を見つめ、頭をかく。

「弾き語りといってもウクレレだしな……聴いてくれる奴なんているのか?」

「いますよ、絶対!!そのために私、協力します!!」

 小糠の勢いに圧され、乗り気ではなかったものの、俺は頭から手を離して頷いた。

「分かったよ、エントリーすればいいんだろ?」

「……!ありがとうございます!!」
 
 小糠が満面に笑みを広げる。
 俺は小糠の顔を見つめ、まあ、ライブを成功させるために頑張るか。と決意した。


 ステージにエントリーした俺は、ウクレレの練習に力を入れた。
 人の前で演奏することに慣れるために、家族やダチの前で何度も弾き語りをした。
 家族やダチは真剣に俺の曲を聴いてくれた。弾いた後の家族やダチの笑顔や拍手の音は、俺の心を暖めた。

 その日、俺はウクレレを持って公園に向かった。

(公園で弾き語りをするのは恥ずかしいな……)

 不安と羞恥から帰りたくなったが、それを抑え、公園に着いてベンチに腰掛ける。
 ウクレレを取り出して腕に抱え、弦に手を添えて――俺は、弾き始めた。

 ポロンポロンと軽快な音が辺りに流れる。

 俺は、特別音楽の才能がある訳じゃないし、特別歌が上手い訳でもない。
 それでも――俺は歌いたいし、弾きたいんだ。

 俺の声が、ウクレレの音が風に乗る。

 手が届かない好きな人への想いを歌った歌詞。
 その歌詞に、声と音を重ね合わせる。


 やがて弾き語りを終えると、パチパチという拍手の音がして、一組の親子が俺に近付いた。

「素晴らしかったです、素敵な曲をありがとうございました」

 母親と思われる女性が優しく微笑んだため、俺は緊張しながら頭を下げる。

「聴いて下さりありがとうございます!」

「おにいちゃん、すごいね!これ、お礼にあげる!」

 子供が何かを差し出したため、それを受け取って見ると、それは袋に包まれた小さなあめ玉だった。

「ありがとう」

「いえいえ!またきかせてね!」

 母親と子供は一礼して去っていく。その姿を見送った俺は、袋を開けてあめ玉を口に入れた。

「……あめぇな」

 舌であめ玉を転がしながら呟いて、俺は改めて頑張ろう、と決意した。