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師匠と弟子と 4

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 チョーンと木が鳴って緞帳が上がって行く。いよいよ生まれて初めての親子会が始まった。俺と師匠は舞台の上に作られた、少し高くなって赤い毛氈が引かれた高座に並んで座って頭を下げている。
「とざいと~ざい。これより第二十一回小金的遊蔵独演会を開催致します。今回は初めての親子会故遊蔵、鮎太郎口上を申し上げます」
 後援会の青木さんが拍子木を打って口上の前フリを言ってくれる。毎回の事なので慣れたものだった。頭を上げてまず師匠が口上を述べて行く
「春と秋の年二回の開催でございますが、今回は早春と言うには未だ雪深い中での開催となります。しかも不肖私めに弟子が出来ました。その者が昨年二つ目となり独り立ち致しました。今回は顔見世と言う事で連れて参りました。どうか、よろしくお願いいたします。何故未熟者故に多少の不出来は暖かく見守って戴きたく存じます。それでは鮎太郎を紹介致します」
 師匠の口上が終わって俺を紹介してくれた。顔を上げると一杯になった会場の全ての人の眼が俺を見ていた。落語の会場は演劇とは違って客席も暗くはしないのだ。だから高座の上からお客さんの顔が良く見えるのだった。
「え~紹介されました、小金亭鮎太郎と申します。この度晴れて二つ目となりました。未熟者ですがどうぞ宜しくお願い致します」
 そう言って師匠と一緒に頭を下げた。再び師匠が顔を上げて
「どうか、この鮎太郎が一枚看板になれますように、皆々様のご支援を賜りたく存じます。最後に三本締めをお願い致します」
 なんて事だ。今回の口上は俺の為にしてくれたのだと理解した。師匠の想いが判り、胸が熱くなった。自然と涙が高座に落ちて行く。駄目だ。そんなに泣いたら毛氈が台無しになってしまう。必死で涙を抑える。会場と師匠は三本締めをやってくれている
「よぉ~シャシヤシャン、シャシャシャン、シャシャシャンシャン」
 最後に大きな拍手に包まれながら緞帳が降りた。
「師匠、ありがとうございます! 俺、全く知りませんでした!」
「ばか、泣いてやがる。これから先は己だけだからな。しっかりやれよ。俺の顔に泥を塗っても構わないがセットしてくれた青木さんの顔には塗るなよ」
 その言葉を聴いてまた涙が落ちるのだった。
作品名:師匠と弟子と 4 作家名:まんぼう