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霊感少女   第二章  二部

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ロープ




早朝7時の女子校


人影も まばらだ


部活動の朝練で 体育館から ボールとバッシュの靴音が 響いていた


事前に 電話で話しておいた 松本と三橋が 校門の裏で 待っていてくれた


三橋は 相楽と一緒に居る雅人の顔も見ずに
「昇降口の鍵 開けてあるから」
と 声を 潜めた

職員用の玄関から 忍び込んで 校門から 一番近い昇降口のドアを 開けてきたのだ

「ありがとう 助かる」
相楽は 雅人の腕を引き寄せ 三橋と松本に囲まれながら 一気に 昇降口まで 足早く向かった


「ねぇ ねぇ この人が 相楽の彼氏?」
緊張感のない松本が 雅人の顔を マジマジと見ている
「どうも」
雅人は 照れ臭そうに 頭を下げた

縺れながら 昇降口に なだれ込み ドアの鍵を閉めた三橋が 息を切らせながら
「もう いい加減にしてよ」
と 松本を睨むので
思わず松本と雅人は 同時に
「ごめん」
と 謝っていた


冷静な相楽が
「時間が ないから 行くね」
と 言った

「無理しないでね」
「気をつけてよ」
「何かあったら すぐ叫んで」
「大声でよ」

心配で 堪らないのだろう
三橋も松本も 真剣な顔をしていた

「ありがとう…一時間経って戻らなかったら…」
「わかってる 先生と一緒に 迎えに行くから」
「絶対に 無事に帰って来てよ」


相楽は コクンと頷いて 雅人の手を握り 廊下を走り始めた


何も 解らず ただ 引っ張られるまま 走る雅人が
「なんなんだ?」
と 聞いたが 返事は ない

一気に 三階まで 階段を駆け登り 足が縺れ始めた雅人は 相楽の手を引いて立ち止まった

「何処行くんだよ」

相楽は 息を飲み込み雅人の方へ振り向き

「屋上よ」
と 苦しそうに答えた

「…屋上?」
「そうよ」
「屋上に 何しに行くんだ」
「今 話してる暇 ない」


正直 雅人は 腹が立った
「なんだよ それ」
「…わかってよ」
「わからねぇよ」

相楽は 唇を噛みしめる

「お願い 話すから…歩いて」
「…………」

納得はいかないが 相楽に言われるまま 階段を昇り始めた


そのまま 無言で 四階まで昇り 漸く 相楽が口を開いた

「ごめん 雅人」
「……いいよ」

四階の廊下を 奥に進みながら 話し始める

「血文字の壁の話 覚えてる?」
「…なんとなく」
「そこに 行くの」
「……!」

雅人は 面食って 廊下に立ち止まった

「信じてくれなくていい」
必死に 雅人の手を引っ張る相楽の顔が 泣きそうになった

相楽も 相楽なりに 恐いのかもしれない

「由美が…由美が 居るかもしれないの」

今にも 涙が 零れ落ちそうになる相楽の顔を見つめた

相楽は 由美を 探しに来たのか?

「…解った 解ったから 泣くなよ」

雅人は 相楽の頭を腕で抱え込み 泣き顔を隠した


我慢していたのだろう
相楽は 雅人に しがみついて震えている

「…けどさ 俺 何も 出来ないかもしんねぇぞ」
「…いいの 側に居てくれるだけで」


相楽は 涙を雅人の服に なすりつけ 深く息を吐き出した


廊下の突き当たりを曲がると 屋上へ向かう階段の前になる


……おかしい


昨日 見た階段と
何かが 違う


………進入禁止の札だ



進入禁止の札が
腰の高さでロープに
繋がれている


昨日の たるんだロープではなく……
もっと 古いロープ


相楽は 雅人の手を握り閉める


【異空間】への
入り口だとしたら


戻れる可能性は
あるのだろうか


もしかして…
由美と香奈は
このロープを潜ったのかもしれない


相楽の握る手が 震えるのを 感じていた雅人は 無償に腹が立ち 無意識にロープを 引き契った


「!!!」

相楽の足元に 通行禁止の札が 音を立てて落ちる


………何!?…

相楽は ア然となった


意図も簡単に 【異空間】の門を 破壊しする この男は……いったい……


相楽は 雅人の顔を見上げる


特徴のない 平凡な男

雅人の行動は 意味があっての行動なのだろうか


「何で 外したの?」
「ん?」
「ロープ」
「ん~ 面倒臭くねぇ?潜んの」
「……それだけ?」
「そそ」


相楽は 頭が痛くなってきた

これから先 大丈夫なのだろうかと


階段を昇り始める


一歩…一歩


空気が 淀んでくる



…一歩……一歩



踊り場の手摺りから
背中越しに
視線を 感じる



………居る



相楽を 見下ろし笑った
血まみれの生徒が
声を ひそめて



………待っている




突き当たりを曲がる



空気が重い…




一歩……


…………一歩…





階段の上から
ストッキングを履いた
足が 見える



ストッキングには
血の指跡が……




相楽は 背筋が凍った





自殺したと言われている
生徒の霊も



もしかすると
霊に 操られ
自殺したのかもしれない




誰かに
それを伝えたくて



生徒を 引き擦り込んで いるのだろうか……





階段の手摺りから

血塗れの生徒が





顔を 出した





相楽を 嘲笑う様に
口元が 上がる





相楽は 自分の口に
手をあてた


今にも 悲鳴を
あげてしまいそうだったからだ





生徒の霊が
一瞬 目を見開いた





相楽は その一瞬を見逃さず 生徒の視線を追った



視線の先に

雅人が 居た


血塗れの生徒の形相が
次第に 弱々しくなり


手摺りに身を隠した




地縛霊になってしまった
生徒の霊は……



まだ 10代の少女なのだ



恋もせず
命を落とした
少女



女子校と言う
特殊な空間に



雅人の存在は
異質に写る




    【男】




地縛霊の少女は
怒りを現した





目の前の
踊り場の壁に





血の文字が





ひと文字…


また ひと文字…






血が流れる落ちる









   【帰れ】