キリ番
が、しかし、この時には、憲太郎の脳裏に、ひとつの考えが強まりつつあった。ただの希望的観測に、すがりたいだけなのかもしれなくはあった。交番にいた時に、同世代と思しき男性警察官と語り合ったこと……そこでちらっと出てきた、一つのキーワード……当たるかどうかは、判らない。当たらなければ、無意味な空振りだ。が、ひょっとすれば、賭けてみる価値が、あるのかもしれない。
憲太郎は、自身の左腕の袖をまくった……そして立ち止まって、女を見据えた。
「キリ番っ! 記帳っ!」
歪んだ顔が、泣き叫びながら距離を詰めてくる。
「テメーはここまでだろ!」
憲太郎が見せた左腕には、電波時計があった。
果たして、女の姿は、一瞬にして消え失せた。
「……ゆ、幽霊だったのか」
ショックと疲労で、憲太郎はその場にへたり込んだ。
「……亡くなった時期で、感覚が止まってた?」
憲太郎は、時計を見ながら苦笑いした。
「だって懐かし過ぎるだろ……『テレホタイム』なんて」
【完】