小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

紅装のドリームスイーパー

INDEX|45ページ/98ページ|

次のページ前のページ
 

Memories Level.4 ──いまから十年前、幼稚園


 泣いている。花鈴が。
 パパの絵がうまく描けないって、さっきからワンワン泣いている。
 おれは菜月と顔を見合わせる。菜月もほとほと困り果てた顔をしている。「なんとかしてよ」と、おれが肘でつつくと、菜月は不服げに口をへの字に曲げた。
 思いあまった菜月が「花鈴ちゃん、いっしょに描いたげる」と、花鈴に助け船を出す。
 それでも花鈴は泣きやまない。半分かんしゃくを起こして、真っ白な画用紙を黒いクレヨンで塗りつぶしていく。パパの顔のはずだったオレンジ色の玉が真っ黒になっていく。
 なんだか悲しい。悲しくて、悲しくて、おれも泣きたくなってくる。
 幼稚園の先生が「どうしたの?」と花鈴の顔をのぞきこむ。
 花鈴は泣きながら、「パパがね、パパがね……」と繰り返す。それだけで先生には通じたようだ。
「じゃあ、先生といっしょにパパの絵、描こうか?」
 それでようやく花鈴の機嫌がなおった。先生といっしょにクレヨンを画用紙に走らせている。カリカリカリ。画用紙をこするクレヨンの音。花鈴が笑う。楽しそうに。
 なんだろう、この気持ち。
 花鈴が泣きやんだからよかったはずなのに、モヤモヤと晴れないこの気持ちは?
 菜月が花鈴の絵をのぞきこんでさかんにほめそやす。
 それを、おれは冷めた心持ちで聞いている。
 できあがった絵を見せてくれた花鈴におれはひどいことを言う。なにを言ったのかは憶えていない。
 けれども、またもや花鈴が泣きだしたのはよく憶えている。
 泣かせたのは、まちがいなくおれだった。