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ゴジラ

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1. Tokyo



 スタジオでは喧々諤々の議論が繰り広げられていた。

 選挙を控えての各党党首によるTV討論会。
 様々な課題に関しての議論が繰り広げられてきたが、今、俎上に上っているのは憲法改正問題。
 現実に即した憲法に改正すべきだとする首相に対し、野党からは激しい反論が投げ掛けられている。

「首相はこの国をどういう方向に持っていくおつもりなのか? 戦争を出来る国にしろとでも?」
「侵略戦争は勿論私も否定いたします、ただ、日本が攻撃を受けないとも限りません、その時の交戦に支障があってはならない、現憲法はその辺りを明確にしていませんから、日本も防衛の為ならばためらわずに戦う、と言う姿勢を明確にしておかなければならない、そう考えているわけです」
「日本が攻撃を受ける可能性、と仰いますが、具体的にどの国が攻めて来るとおっしゃるんですかぁっ?」
「どの国、と名指しして特定するつもりはありません、攻撃を受ける、侵略を受ける可能性を申し上げているのです」
「まあ、名指しをされなくとも、首相の頭の中にある国名は想像できますがね」
「それは異な事を……あなたの頭の中には特定の国が浮かんでいるわけですね?宜しければお教え願いたいものですが」
「何もそんなことは言っていない、君の考えそうなことくらいお見通しだと言ったまでだ、そもそも自衛隊は憲法違反じゃないのか?」
「現在の憲法はどちらとも解釈可能です、ですから私はそれを……」
「防衛の為とは言っても相手の兵士を殺すことに変わりはないでしょう? 殺すより殺される方がましです」
「そもそもどこまでが防衛でどこからが侵略なのか、線引きができるのか?」
「自衛隊に税金をつぎ込むよりも福祉に!」
「私は暴力装置を認めない!」
「無抵抗こそが最大の防御です、9条を掲げて話し合えば良いんです!」

 各党より1名づつ出席しての討論会、多勢に無勢、首相の声は遮られ、責め立てられるばかり……。

 
 その最中のこと。
「え?……それ本当?……映像は出るの?……そう、わかった」
 メモが渡され、司会者は目を丸くした司会者は緊張の面持ちで議論を遮る。

「活発な議論の途中ですが、たった今緊急ニュースが入りました……まずは映像をご覧ください」
 
「これは……一体なんだ?」
 某党首が胡散臭そうな表情で司会者に吐き捨てるように言う。
「その……これはゴジラではないかと……」
 司会者はそれを事実と認めたくないかのように口ごもる。
「ばかな……特撮かCGじゃないのかね?」
「いえ……私もまだ信じられませんが……」
 うろたえた様子の司会者の態度からしてフェイクとは思えない。
「では、この映像は本物なのか?」
 その刹那、防音処理されているはずのスタジオを震わせるようなゴジラの咆哮、出演者はいっせいに青ざめた。
「これは間違いなくゴジラですね、私は子供の頃よく映画館で見ましたよ」
 彼らに引き換え、首相は落ち着いていた。
 ヘリコプターがゴジラの周りを飛び回り、空からの映像を送って来る。
「あっ、あの球体は!」
「このTV局じゃないか!真っ直ぐこちらに向かってくるぞ!」
「ギャオォォォォォ!」
 再び咆哮が響きわたり、スタジオはパニックに包まれた。
「き、君は首相だろう? あれを何とかしたまえ」
「いえ、まずは正体を見極めませんと」
「何を悠長な事を言ってるの? 踏み潰されちゃう!」
「実はロボットで乗組員がいると言う可能性もあります、殺されても殺さないのではなかったですか?」
「あ、あれはもしかして熱線を吐くんじゃなかったかね?」
「攻撃力は未知数ですし、攻撃する意図を持っているどうかもわかりません」
「何をしているんだ、すぐに自衛隊を出動させたまえ!」
「なにぶん、攻撃するにも費用がかかりまして、それは税金から捻出するわけですが」
「ぐずぐずしてると踏み潰されるんだぞ!もういい! 私が出動を要請する!」
「指揮権は私にありますが……なんなら選挙後にでも」
「馬鹿な事を! と、とにかくなんとかしたまえ!」
「では拡声器で憲法第9条を読み上げましょう」
「それが何の足しになるって言うのっ!?」
 首相はニヤリと笑った。
「万一、あれが周辺国からやって来た兵器だとしても、攻撃の意図があるかどうかわからなくても、攻撃して構わないんですね?」
「と、とにかく早くしたまえ!」
「わかりました……私とて踏み潰されたくはありませんから……自衛隊に告ぐ、お台場に出現したゴジラを撃退せよ!」
 
 すぐさま戦闘機が飛び立ち、ミサイル攻撃でゴジラの前進を止めると、全速力で駆けつけた艦艇が背後からも一斉砲撃、辺り一面は硝煙に包まれ、火薬の匂いが立ち込める。
 しかし、自衛隊全力の攻撃を持ってしてもゴジラの歩みを緩めるのが精一杯。
 このままでは東京が……。

「MG-1発進!」
 更に首相が命令を下す。
「MG-1? なんだね?それは」
「まあ、見ていてください」
 
 首相官邸が映し出されると、前庭が左右にスライドして開き、銀色に輝くロボットがカタパルトに乗って現れた。

「なんだ! これは!」
「これがMG-1、メカゴジラ一号です」

 轟音と共にロケット噴射を始めたメカゴジラ一号はカタパルトから飛び出して行く。

「そ、空を飛ぶのか?」
「当然です、メカゴジラ一号が地上を歩くと街を破壊してしまいますからね……いや、私もこれが飛ぶ姿は初めて見ます」
 首相の目は少年のように輝いている。

 瞬く間に東京湾に到達したメカゴジラ一号はそのままゴジラに体当たり。
 もんどりうって倒れたゴジラは恨めしげにメカゴジラ一号を一瞥すると海に帰って行った……。

「危機は去ったようです、防衛の目的は果たされましたから追撃は無用と思います……自衛隊、撤収せよ」
 戦闘機、艦艇、それにメカゴジラ一号が速やかに帰還すると、後は何事もなかったかのよう……。

「……一体いつの間にあんなものを……」
「あれを秘密裏に建造するのは一苦労でしたよ、秘密基地建設をカモフラージュする官邸の建て替えにすら反対されましたからね」
「国民に秘密であんなものを作るとは、どういう了見だ!」
「皆さんに知られると建造できなくなりますからね、しかし、皆さんはたった今、メカゴジラ一号に救われたのではありませんか? それだけじゃない、あのままゴジラが東京に上陸してもよろしかったのですか?」
「う……」
「では、討論に戻りましょうか、確か、9条のお話の途中でしたね……」


作品名:ゴジラ 作家名:ST