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夏空少年

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失恋少年



 ガコン、と音を立てて紫色の缶が落ちてくる。取り出そうと触った缶はびっしょりと汗をかいていてひんやりと気持ちいい。
 振り向くと、圭輔はもう既に歩き出していた。
 俺は薄汚れた重いスポーツバッグをいつも通り左肩に掛け、小走りで圭輔の後を追う。 自動販売機の道の反対には公園(と言っても遊具はほとんど無いけれど)があり、石造りのベンチにちょうどいい具合に木が影を落としているのだ。
 いくら部活で慣れているからといって、正午過ぎの日射しはさすがにきつい。下が長ズボンの俺と試合中走り回るあいつはどっちがきついんだろう、ふと考えた。どっちも同じか。
 そんなとりとめのない思考のままで、ベンチに腰を下ろし、さっき買ったばかりのグレープをグッとあおる。あー冷てー。思わずそんな言葉がこぼれた。
「ビール飲んでるオヤジみてぇ」
 笑う圭輔の手にはオレンジの缶。きっとこれの好みだけは永久に合わないだろう。
 俺達の頭上にはこの近くでは見かけない木が青々と葉をしげらせているので大分快適だ。だけど木陰から少しはみ出した足は太陽の視線にさらされてじりじりと痛い。
「何がいけなかったんだよ?」
 自分で言っておきながら、わざわざ聞くまでもないことだと、思う。
「ほんと、何がいけなかったんだろうなぁ」
 笑っているような顔で、笑っているような口調で、言う。
 見上げれば、目が眩むような日の光。
「マジで、何でだろうなぁ」
 ああ、ありえない程空が青い。

 圭輔に彼女がいたのは、つい最近のことだった。
 圭輔が彼女と別れたのも、つい最近のことだった。
 圭輔よりもちょっと背が低くて、色白で、肩くらいに髪を伸ばしていた。結構可愛かったんじゃないかと思う。俺の好みとは違うけれど。
「向こうから告ってきたんだ」
 圭輔はそう言っていたけれど、その顔がまんざらでもないことを物語っていた。
 つきあい始めてからは俺もよく、二人で話したり、一緒に帰ったりしているのを見かけた。周りの評判も良く、同じクラスの女子が「あの二人、仲良さそーでうらやましーなー」とまで言っていたのを聞いたこともある。
 半年程たった頃、俺は放課後の教室で彼女を見かけた。
 彼女は泣いていた。傍には彼女の親友の姿が見えたけれど、何を話しているのかは聞こえてこなかった。
 俺は見てはいけないものを見てしまったような気がした(実際そうなのだろう)。そしてそれは、圭輔だとしても同じことだと思った。そのことは圭輔には言わなかった。近く何かが起こることを無意識に感じていたのかも知れない。
 その後すぐ、彼女は圭輔に別れを告げた。
 理由は一言も言わずに。
 圭輔は他に彼女なんか作っていなかったし、レギュラーでもないから部活にかまけて彼女をほったらかすということもなかった。
 結局圭輔は、あの日、彼女が泣いたことを知らないままでいる。

 じっとりと湿気を含んだ生ぬるい風がうっすらと浮いた汗を中途半端に乾かしながら渡っていく。おい、暑いのか涼しいのかはっきりしろよ。
 心の中で悪態をつきながら、底に残った缶の中身を口に流し込む。炭酸が口の中でパチパチとはねた。
 圭輔は悪くない。きっと、彼女も。
 俺も、好きな人ができたら分かるんだろうか。
 何故か急に、笑顔のあの子が浮かんで、なんだか笑えた。
 圭輔は俺が飲み終わったのを見て、唐突に言った。
「佑夜、これどっちが上に飛ぶか勝負な」
 足で、と付け足して返事も待たずに始めようとする。
「せーの、」
 差は歴然だった。
 カン、と小気味よい音がして垂直に飛んだのは圭輔の缶で、僅かに残っていたオレンジ色の中身が太陽の光に煌めいた。俺の缶は、パカンという間抜けな音を出して山なりによろよろと着地した。
「おーい、お前手加減しろよサッカー部。次は手なー」
「えぇー、勝てる気しないんだけど俺」
 俺は、いつもとは異なる動作で 右手を後ろに引く。
 ---振りかぶって、一球!
 そんなアナウンスを流してみる。もちろん、心の中だけで。
 予想通り、俺と圭輔の順位は入れ替わった。カロン、と着地音が響く。それを拾い上げたら、することはもう決まっている。二人して顔を見合わせニヤッと笑い、俺は右手を、圭輔は右足を引く。
 青過ぎる空に、それは放物線を描いて吸い込まれていった。

 何が悪かったのかなんて、わざわざ聞くまでもないことだ。
 何故って、僕も君ももうとっくに答えなんて知ってるからさ!





作品名:夏空少年 作家名:坂井