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擬態蟲 下巻

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14 絹代と善一、そして佐佐木原清人



【擬態蟲】14 絹代と善一、そして佐佐木原清人

http://www.youtube.com/watch?v=Xgmmb8NUIL0&feature=related
Khachaturian - Waltz from "Masquerade"

しかし飛び立とうとする巨大な蛾だったが、何者かに脚をしっかりと掴まれ地面に引き倒される。バランスを崩してしまい地面の上で脈絡なく暴れまわるように羽ばたき角に体をぶつけてしまう巨大蛾。
「あぶないところだった。まだ逃がすわけにはいかんのだ。」
月夜に照らされて浮かび上がったのはモノクルをかけた、どじょう髭の紳士。全てを知っているかのような顔をした佐佐木原清人だった_。
巨大蛾を取り押さえようと佐佐木原清人は近づく。
脱力感に朦朧としている善一の顔を見ながら、腹の底になにか邪悪な心持ちを抱えたような、嘲り笑うような笑みを浮かべる。
「思ぅたとおりよ!この絹代さんは・・いや絹代さんだったものは、旧くは晋の時代から我が国には“おしらさま“の伝説で知られる”御神虫”、そしてヒトによって生かされヒトに奉仕し、しかしそうするうちにヒトに交わりヒトになろうとする“あやかし”の虫!
うわさには聞いていたがコレほどまでのものとは、正直思わなんだったわい!」
羽をばたつかせる巨大蛾の体を、佐佐木原清人はその細い身体からは
考えられないような凶暴な力で土蔵の入り口の方に投げ飛ばす。
「二郎翁が丹念に育てたのだろう、しかし美しい娘に“擬態“したものよ。これまでにどれほどの精を注ぎ込んだものか。
恐らくは試行錯誤、幾度の挫折もあっただろう、
二郎翁のその研究の成果は、これぞ生命の進化の謎を解き明かし
皇国の発展のための重要な一端を成すもの!
簡単に逃がすわけにはいかんぞ!」
土蔵の中にひきづりこみ、力任せに巨大な蛾を壁に叩きつける。
驚いて怯んだ巨大蛾を土床に放り投げ、さらに力任せに頭部を蹴り飛ばす。激しく動く羽を手で掴み、馬乗りになり怒号を張り上げる。
“さぁ、産め!産むのだ!
人間の姿に似せてヴァギナまで似せて進化して、
人の男の精を吸い取りおって !
さぁ、産むのだ!
その胎内に抱えた卵を!
新たなる種族として進化させた姿を!“
最初は羽をばたつかせて激しく抵抗していたが
巨大な蛾は佐佐木原清人に後ろから羽交い絞めにされ
また胎内の変化が起こったように全身を震わせ
激しく腰を振ると・・
巨大な長い卵管を胎内から伸ばし、一斗樽ほどの大きさの巨大な卵を生み出した。回転蔟を吊るすフックに巨大蛾の手足を括り付け、腹部を擦ってやると巨大蛾は次々に緑色に発光する巨大な卵を産み付ける。
佐佐木原清人は大声で善一を呼ぶ。
「卵を大事に並べるのだ!大事に扱えよ!」
産卵の光景のグロテスクさと一種漂う神聖さ。
辺りを包む猛烈な刺激臭。
をどをどとしている善一の頬を気付け代わりに一発張ると、気を取り戻した千吉は佐佐木原清人のいわれるがまま、土蔵の床に卵を丁寧に置いていった。異臭を放つ粘液に包まれた卵は滑りやすかったが、丁寧に丁寧に並べていった。次々に生みつける巨大蛾は体力が奪われたのか動きが緩慢になっていった。土蔵の床いっぱいに並べられた卵を見て佐佐木原清人は頷きながら微笑んだ。巨大な卵管から最後の卵を生み出すと、佐佐木原清人はフックから巨大蛾の手足を自由にしてやった。
すると巨大蛾は猛然と羽を羽ばたかせ土蔵の宙を狂ったように旋回しやがて土蔵の外へ飛び立った。
善一は巨大蛾を追って外に出ると、巨大蛾は、満月の夜空に飛び立ち、桑畑の上を何度か旋回して、白い月に向かって飛んでいった。
満月の光に消えてゆく白い巨大蛾を目で追いながら、千吉はなんとか
逃げ延びてくれと願った。
「別れの余韻を楽しんでいるところを申し分けないんだがね、いいかな善一くん。」
ものすごい腕力で襟首を持ち上げられ、目の前に顔を近づけて佐佐木原清人は千吉に言葉を選びながら話はじめた。
「これからの時季は寒くなる。
だが君の大事な絹代さんが残した大事な卵を育てなければならない。
いいかい。これからひと月、床暖房を絶やしてはならない。
湿気を高く保たなくてはならない。いいか、私はこれからひと月、この土蔵に篭り大事な瞬間を見守る。キミはこの土蔵への熱を絶やさぬように努めるのだ。わかったな。そしてひと月の後、君を呼ぶまで此処に近づいてはならない。よいな。私が呼ぶまでは誰も近づけてはならない。」
善一は余りの恐ろしさに、うなづくと佐佐木原清人から離れて泣いて帰った。

作品名:擬態蟲 下巻 作家名:平岩隆