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擬態蟲 上巻

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6 桑畑権蔵の復帰



【擬態蟲】6 桑畑権蔵の復帰

http://www.youtube.com/watch?v=m6VNK1lgG
OY&feature=related
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翌朝、桑畑権蔵が刺された_!という話題は町中に広がった。
項垂れて机に突っ伏したまま、嗚咽を上げて涙を流しながら笑っていたのは
善一の父、福田千吉取締役だった。
まさかこんなかたちで、日頃の蟠りが祓われようとは!
しかもこの好機に!
悲しい顔を涙で作るのは意外に簡単だが、腹の底から湧きあがる喜びを
隠すのはたいへんだ。だから葬儀の準備を指示して突っ伏していることにした。
政府は「殖産興業」をうたい大阪紡績會社が設立した。
次なる動きとして富岡の製糸工場と圓寅養蚕があがったのだ。
ともすれば、ちんけな国産の機械などではなく外国の、しかも欧州の、いや仏蘭西の
最先端製糸機械を輸入して大きな工場を建てたい_。
内務省の役人にそう促されて。元技術屋としての心も騒ぐ。
しかし大型機械を外国から輸入するとなれば外為の枠もあるし、なんといっても_。
桑畑権蔵がそれを阻むだろう。
もともと福田千吉の興そうとした製糸工場を潰したのはあの男だ。
「ウチは原材料で勝負する。機械なんぞ新しい物が出てくればガラクタだ。
そんな商売は投資した分だけリスクが増えるだけだろうが!」
確かに機械の陳腐化のリスクというものは付いて廻る。
だがそれを乗り越えて・・・技術で勝負したい!
そのためには福田千吉は最大の難敵桑畑権蔵と向き合わねばならなかった。
しかしその桑畑権蔵が刺されて川に流されたというのだ!
福田千吉は息子の善一を呼び出した。
「いままで苦労をかけたな、これからはこの私が圓寅を取仕切り、お前を・・」
と言いかけたときだった。
社用門の方で歓声が上がり、なにごとかと二階の専務室の窓から眺めると
信じられないものが見えた。
善一は、急いで社用門に走った。
込み上げるのは、背徳感ではなく、なにか違う感情だった。
職工、社員たちを掻き分け目の前に出ると・・。
巨大な大男がものすごい形相で、痛みをこらえながら。
刺された腹をかばうように押さえながら。
濡れた服のまま、よろよろと歩いている男。
善一は、ことばがでなかったが・・
「旦那様・・。」
桑畑権蔵は、善一の頭を擦る。
「腹が痛い。医者を連れてきてくれないか?」
「ハイ・・!」
善一は、いわれるがまま、診療所まで走った。


作品名:擬態蟲 上巻 作家名:平岩隆