小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

春盲のワルツ

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

春盲のワルツ




https://www.youtube.com/watch?v=bidFk-JFnZE
チャイコフスキー 花のワルツ

山を越え
谷を越え
丘を越えて

静寂な
音の無い
吹雪の音だけの

色彩の無い
起伏の無い
白い雪に覆われた

冷たく冷え切った
死に覆われた
凍った大地を

待ちに待った
温かな風が
溶かしてゆく

雪解けの水が
小川を満たして
滝を落ちて

雪の下で凝り固まってきた
土に砂に潤いをもたらして
草々の芽が一斉に吹き出して

水が
空気が
地面が

だんだんと
だんだんと
だんだんと

髪の毛が
爪先が
耳たぶが

皮膚が
手が
心が

だんだんと
だんだんと
だんだんと

三寒四温
二寒五温
一寒六温

辛く長かった冬が去り
暖かな陽によって暖められた
春の風が里を色とりどりに染めてゆく

梅の甘酸っぱい香りが
桜の絢爛たる花弁が
桃の甘い匂いが

凍えきった残酷な季節を
生き残った・・というよりは
やりすごした者たちに

行きとし生けるものすべてが
この世のものが待ちわびた
春がやってきた!


心の臓から
手足の指先まで隅々に
血潮が通うがごとく

生命の息吹を感じる
生命の伸長を感じる
そして、生命の偉大さを感じる!

生命の尊さと
生命の躍動と
生命への感謝を

神に感謝し
神に祈り
神にお礼をしよう!

白色や淡い紅色の花に彩られ
青い葉に黄色い花が咲き乱れる
祠の前の祭壇に供え物を並べよ

長い冬が過ぎたばかりだから
豪華な供え物なんかできないが
心尽くしのものをお供えしよ

今年も雨が降りすぎませんように
今年も酷い日照りの夏がきませんように
今年も豊饒な秋が来ますように

さぁ、村一番の美少女を連れてこい!
さぁ、色白で黒い髪の少女を連れてこい!
さぁ、神さまへの生贄を捧げよ!

色白の乙女に生まれて初めての酒を振る舞え
色白の美少女の肌は徐々に桜色に変わってゆく
神さまの前に御供えしよう

爺様たちの話じゃ、いにしへの神たちは
その姿を我々の目の前には表すことはしない。
なぜなら、その姿はあまりに奇怪で、醜悪で。

見るものを凍り付かせるからだ、といい
あるものは其れが我が神の荒魂(あらみたま)である、といい
そもそも神の御姿を見ようとしたものに罰が与えられた、といい。

神は村の美少女を、よりわらに選ぶ
美少女の身体にのりうつり、少女の口から
神の御言葉が伝えられる

御神前に捧げられた美少女の穴という穴から
御神威が入り込み乙女は恍惚の表情にかわる
あぁ神が美少女の中に入り込まれる

悶絶の後、美少女は目を開けすっくと立ち上がり
衣服を脱ぎ捨て、ゆっくりと声をあげる
神のよりわらとして、神の御言葉を告げるのだ

汗ばむ白い肌を捩り
蕾のような胸乳を揺らし
細くしなやかな足を曲げて跪き

髪をふり乱し
宙を仰ぎ
そして民を観る

”ときはきたり
いまこそ
たたかいのとき”

”われらをくるしめてきた
やまむこうのやつらに
おもいしらせてやるのだ”

”じぶんたちのつごうで歴史をねじまげて
じぶんたちの価値観をおしつけ
かってに国境線をひいた”

”おんなこどもに文字をならわせて”
”うちのこともしないで勉強ばかりさせて”
”どうだ、こどもが減ってしまったぞ”

”われらにはわれらの昔からのしきたりがある”
”われらにはわれらの守らねばならぬ掟がある”
””そして、われらにはわれらの報復の流儀がある”


”うばわれた土地をとりもどすのだ”
”うばわれた習慣をとりもどすのだ”
”うばわれたものたちの恨みをはらすのだ”

”やつらをたたきのめせ!”
”やつらをいたぶれ!”
”やつらをころせ!”

”こどもたちをなぶれ!”
”おんなたちをおかせ!”
”おとこどもはみなごろしだ!”

”そのためにも
うめよ
ふやせよ”

”こよいは、うたげじゃ
こよいは、まいおどり
こよいは、まぐわうのじゃ”

さぁ、神の言葉が告げられた!
今日は酒を呑み交わそう!
今日は舞い、踊り、まぐわぉぅぞ!

手を叩け!
指を鳴らせ!
足を踏め!

笛を吹け!
太鼓を叩け!
弦を掻き鳴らせ!


美少女は、舞い、踊り、唄う
われらも、舞い、踊り、唄う
村中が、舞い、踊り、唄う

うめや、ふやせや!
うめや、ふやせや!
うめや、ふやせや!

いち、にぃ、さん
いち、にぃ、さん
いち、にぃ、さん

いぃ、ある、さん
いぃ、ある、さん
いぃ、ある、さん

わん、つぅ、すりぃ
わん、つぅ、すりぃ
わん、つぅ、すりぃ

あん、どぅ、とろわ
あん、どぅ、とろわ
あん、どぅ、とろわ

あいん、つばい、どらぃ
あいん、つばい、どらぃ
あいん、つばい、どらぃ

あじーん、どわー、とりぃ
あじーん、どわー、とりぃ
あじーん、どわー、とりぃ

わーひど、いとねん、たらーた
わーひど、いとねん、たらーた
わーひど、いとねん、たらーた

いざ、舞わんかな、神の舞を
いざ、踊らんかな、神の踊を
いざ、唄わんかな、我が故郷の唄を

いにしへの神たちへの唄を
いにしへの神たちへの誓いを
いにしへの神たちへの畏敬の念を

神のもたらした実を飲もう!
口酸っぱい実を飲もう!
赤い実を皆で飲もう!

元気が出るだろう!
ちからが漲るだろう!
勇気が湧くだろう!

血と!
肉と!
精と!

我が神に捧げよう!
すると神のよりわらである美少女は声高らかに笑った!
そしてそれらを浴びて、叫んだ!

やつらを殺せ!
やつらを切り刻め!
やつらの村を燃やせ!


いあ いあ はすた!
いあ いあ はすた!
いあ いあ はすたあ!

いあ いあ はすた!
いあ いあ はすた!
いあ いあ はすたあ!

熱狂の夜が更けてゆく
永遠のような暗闇が訪れる
だが朝には夜が明ける

梅の花と
桜の花と
桃の花と

花びらが散るころ。
美少女の高らかな笑い声を先頭に進撃を開始。
勝ち負けじゃない、それが御神意なのだから。

生きるも死ぬも我らが神の御神意
戦うことが我らが神の御神意
戦争反対だ、平和だ、と叫んでみても
結局は戦いは止められない
なぜならそれは我らが神の御神意だから。
奪え、犯せ、殺せ、と神が云うのだから。

刀を手に
槍を手に
鉄砲を手に!

機関銃を構え
大砲を構え
ミサイルを撃て!

てけり!
てかり!
てけり・り!

突撃の合図を送る美少女の瞳の奥に
底なしの暗黒のような黒い瞳の奥に
禍ツ神の嘲った笑い声が聞こえた。

いにしへから脈々と深い恨みを抱え続けた神たちが
深い雪と氷に閉ざされた暗い闇の中で
待ちわびた季節が到来したのだ!

いあ いあ はすた!
いあ いあ はすた!
いあ いあ はすたあ!

いあ いあ はすた!
いあ いあ はすた!
いあ いあ はすたあ!



作品名:春盲のワルツ 作家名:平岩隆