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天井裏戦記

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 亮太郎はその足で慎平を呼び出し、いつものホームセンターで超音波駆除機を購入することにした。ネズミ獲りに比べたら価格が全然違う。およそ家賃と変わらない、そして超音波だけに効果が見える訳でもない。
 最初は安価で済まそうと思ったり、目に見える実績が欲しいとか適当な言い訳をしてネズミ捕りなど安いものに手を出したが、結局ここにたどり着いた。

 仕送りが足らないので自宅通学の慎平に費用を前借り、最近切符を切られた相手に交渉は難航したが、コンパ1回手配する件で条約を締結。「安物買いの銭失い」ということを慎平は知っていたが今の亮太郎に言うのは酷だと思い黙っていた。

 下宿に戻り、毎日のルーティン作業で天井裏にのぼり、機械をセット。亮太郎はすぐにPCの画面を開けた。
「でよ、コンパの手配はちゃんとこちらに」
画面に映るのはメールボックス。以前に段取りしていたコンパのオーダー表が表示された。空いた1名が慎平のスペースということは阿吽の呼吸。
「どうした?不満か?」
 いつもと様子が違うその動作に慎平の答えが一瞬遅れ、慎平は慌てて首を横に振る。お相手は隣のちょっと高級な女子大、提示のコンパの本気度に亮太郎の本心が少し垣間見える。
「あれ、タッチパネルで操作して、マウスは?」
「マウスは使わんことにした」
「はあ?」
「だって、マウスってネズミよ、ネズミ。我等が宿敵やんかいさ。俺は絶対使わない『武士は食わねどタッチパネル』ぢゃ」
「ワケわかんねーよ」
「で、どーよ」亮太郎はPC画面を見るよう促す「取っておきのヤツよ、これ」
「分かってまんがな」
 二人の条約は笑うことで締結確認のようだ。笑いが止まると周囲が静かになった、天井裏も今のところ。

「で、効果は出るんかえ?」
「いやあ、こればっかりは時間が経たんと分からんじゃろ」
「やっぱ目に見える実績ないと地味じゃね?」
「エエの。これで、ワシには秘策が……あーる!」
 亮太郎はそう言って狭い下宿で荷物をまとめだした。
「何してんの?」
「と、いうわけで今週故郷(クニ)帰るわ」
力業の話の打ち切りに慎平は亮太郎に問いただした。

「さっき言うたじゃろ、秘策があるって」
「へっ?」
「来週なったら、わかるがな」
あたかも勝負アリの表情で笑う亮太郎。こういうときは概してくだらないオチがあるのを慎平はわかっているのだが、敢えて何も答えなかった。
作品名:天井裏戦記 作家名:八馬八朔