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ポチと僕

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3.お母さんと一緒



 こういう日を小春日和と言うのだろうかとポチは思いながら、惰眠を貪っていた。これは飼い犬の特権だ!と思いながら……
 夢うつつでいると、遠くで呼ぶ声がする。誰かと見上げれば何と、お母さんだった。
「ポチ、暇かな? 暇だよね」
 そう言って近づいて来て、手には雑巾を持っている。この時点でポチにはお母さんが何をしたいのか想像がついた。
「さあ、足を出してご覧」
 云われるままに前足を交互に出すと、お母さんは足の裏を丁寧に拭いてくれる。
「綺麗にしようね。畳が汚れ無い様にねえ……」
 鼻歌を歌いながら機嫌良さそうに足を拭いて行く。片方が終わったら、もう片方だ。お母さんは、こちらも楽しそうに拭いてくれる。別の足だからと差別はしない。

 前足が終わると今度は後ろ足だ。これはお母さんがちゃんと支えてくれないと、バランスが崩れてしまう。それでも、お母さんは嬉しそうに両方の後ろ足を丁寧に拭いてくれた。
「さあ綺麗になったよ」
 そう言うと鎖を外して、ポチを抱きかかえ、裏口から家の中に入り、ポチを床の上に置いた。
「さあ、自由にしてご覧」
 そうお母さんが言うのでポチは家の中を三度走って廻ってみせた。その走った姿が良かったのか、お母さんはちょっとうっとりとしている。
「私ねポチ、小さい犬は嫌いだけど、表で飼う犬も嫌いなの。うちはお父さんが、犬は外の犬小屋で飼うものだ、って言って利かないのだけど、私は家の中で飼うのが好きなの。矛盾してるけど、大きな犬が好きなのよ。まあポチはギリギリ合格かな、できたらアフガンハウンドぐらい大きな犬がすきなのよね……ポチも勿論可愛いわよ」
 そう言って、お母さんは今度は「ポチおいで」とポチを呼び寄せると、バスタオルを敷いた上にポチを横にさせて、毛づくろいを始めた。
 ポチはくすぐったいのを必死で我慢していたが、一つくしゃみをした。
「あら、寒かった?」
 そうお母さんが言うので思わず「違いますよ」と言いそうになるのを我慢した。
「あんた、ノミ居ないのね」
 お母さん、いつたい何時の犬の話をしているのかとポチは思った。
 今は、ペットの物を扱ってる所なら、ノミを駆除する薬なんか気軽に買える時代だ。自分にも隆史くんが定期的にしてくれているじゃ無いかと思うのだった。

「あんたが思ったより綺麗なんで、安心したわ。これで安心してアンタを抱いてお昼寝出来るわ」
 お母さんはそう言うと、奥から毛布と枕を出して来て、陽の当たる場所でポチを抱き締めて横になった。
「こうしてお昼寝するのが子供の頃からの夢だったのよ。四十過ぎてやっと出来たわ」
 ポチは正直、迷惑だったが、朝夕の食事の世話をしてくれるお母さんには無碍に出来ないので我慢をすることにした。
 初冬の柔らかな日差しが一人と1匹を優しく包んでいる。初めは嫌だったポチもお母さんの寝息を聴いてるうちにいつの間にか眠ってしまった。

 気がつくと、お母さんは未だ寝ていた。恐らくそんなに時間は経っていないのだろう、そっと寝ているお母さんの腕を抜けだして、家にいる時に水を飲む居間の隅の自分の場所に行くとちゃんと今日も水の用意がしてあった。
 お母さんに感謝をして。その水を飲む。喉が乾いていたから、体に染み透る様に入って行く。
そして、もう一度お母さんの傍に行き、隣に寝転び目をつぶる……暫くこうして寝ていようか? そんな事を思いながらまた寝てしまった。

 それから小一時間もした頃にお母さんが起きだした。その気配を感じたポチは僅かに早く起きて、お母さんの顔を舐める。
「もう、ポチったら、起きなさいって言うのね」
 そう言いながらもお母さんは嬉しそうだ。時計を見たお母さんは
「もうこんな時間か、お昼にはちょっと遅いけど、軽くなんか食べておくか」
 そう言うとお母さんは台所の冷蔵庫からパスタサラダか何かを出した。
「ポチにもおやつあげるからね」
 そう言って鶏のささ身で出来た犬用のおやつを何枚かポチに与えてくれた。ポチはこれが大好きなのだ。他の人は一枚ずつしかくれないのだが、お母さんは太っ腹で一度に3枚はくれる。
 食べるとまた3枚くれるのでポチはお母さんが好きなのだ。ポチが食べてるのを見ると、お母さんはさっきのパスタサラダを食べ始めた。
 リモコンでTVを付けるとその番組を流し見しながら食べている。思えば人と犬が一緒に何かを食べるって事は珍しいとポチはその時思った。

 食べ終わるとお母さんはポチに
「さあ、お楽しみは終わりだよ。誰かが帰って来ると煩いからね」
 そう言ってポチを裏口のポチの小屋に返し、再び鎖を付ける。
「誰も帰って来なかったら、あとで私が散歩に連れて行ってあげるからね」
 お母さんはポチにそう言って頭を撫でる。こうして、お母さんとポチの秘密の楽しみは終わるのだ。

 それから暫くして隆史が帰ってきた。夕方の散歩は隆史だなとポチは思っていたら、夕方ポチのリードを握ったのはお母さんだった。
 不思議そうな顔をしているポチが判ったのか、お母さんは
「今日の夕食は隆史がカレーを作るんだって。だから、私がアンタの散歩の役目よ」
 お母さんはそう言って嬉しそうにリードを手に持っている。ポチは、じゃあ自分が今日は散歩の道を誘導しないとなと思うのだった。

 散歩の途中で霧島さん家のシェリーと合った。
「あれ今日は珍しいわね」
 そう小声で言うのでポチも
「うん、今日は特別」
それだけを言うとさり気なく別れる。お母さんはポチを見て
「あの子がお姉ちゃんが最近付き合い始めた大学生ね。綺麗な子ね。ポチはどう思う」
 そう訊かれたので、ポチは一言
「ワン!」
 と言って答えたのだった。

 家の前迄来るとカレーのいい匂いが漂っていた。ポチは犬用のカレーって無いものかしら、と思うのだった。

作品名:ポチと僕 作家名:まんぼう