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ホワイトデーには

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「じゃあ、後で家に行くからね。厳しく教えてあげるからね」
「お前に教えて貰えると助かるよ」
 もう一人の声の主が誰かは直ぐに判った。間違えるはずがなかった。和也くんだった。そっと廊下の角から顔を半分だけ出す。数メートル先には玲奈と和也くんが並んで立っていた。
「じゃ、後でね」
 玲奈が和也くんの肩を軽く叩いて走って行った。鞄を持っていたからそのまま家に帰るのだろう。わたしは呆然とその後姿を見送って、和也くんに気が付かれないように、そっとその場を逃げ出した。早足で歩きながら涙が出て来て止まらなくなった。
『どうして二人が一緒に勉強するほど仲が良いのだろう?』
『いつの間にか仲が良くなったのだろう?』
『前からそんな関係ならはじめに言って欲しかった』
 わたしは失恋と友達に裏切られた想いを抱えて制服を濡らしながら小走りに学校を後にした。
 翌日からの試験は散々だった。入学して一番酷い成績になるだろうと想像がついた。友達がわたしに元気がないので色々と心配してくれる。その中には勿論玲奈も居た。でもわたしは正直口も利きたくなかった。そんなわたしの変化を玲奈も感じたのだろう。学校の帰りに待ち伏せをしていた。
「美紀、最近どうしたの? おかしいわよ」
 何でもハッキリさせたがる玲奈は、わたしの行く道を塞ぎながら腰に手をあてて仁王立ちしていた。それなら、わたしだって言いたいことがある。
「それはこっちの言い分よ。言わないでおこうと想ったけど、あなたがそう言うなら、わたしも言わせて貰うわ。どうして和也くんと親しい関係なら最初に言ってくれなかったの! 一緒に家で二人だけで勉強するなんて普通の関係じゃ無いじゃない」
 玲奈はいきなりわたしが、事の本質に迫ったことを言ったので、少々慌てて
「ちょっと、こんなところで、そんな大事なことを大声て言わないでよ」
 玲奈はわたしの腕を掴むと近くの公園に連れ込んだ。奥の人の来ないベンチに腰掛けると
「美紀見ていたんだ……誰にも知られたくなかったのだけど……」
 ちょっと放心したように下を向きながらつぶやくように言う。
「試験の前の日に下駄箱の所で約束してるのを見たの」
 わたしは事実をそのまま言うと玲奈は観念したように
「見られたのなら仕方ないわね」
「何時からなの? もう長いの?」
「長いわよ。ずっとだから」
「ずっと?」
 なんだか話が噛み合わないと感じた。
「誰にも言わないでね。学校でも知ってるのは担任と校長先生ぐらいだと思うから……わたしと和也は苗字は違うけど兄弟なのよ。幼い頃に両親が離婚したの。わたしと和也は二卵性の双子なのよ。驚いたでしょう。わたしが姉で和也が弟なのよ」
 驚いたなんてものではなかった。
「似てないからね。親が離婚して、わたしは父に、和也は母に引き取られたの。幼稚園の時だった。離婚の理由はよく知らないけど。それからわたしと和也は離れて暮らしたの。たまに逢っていたから、お互いの事はよく判っていたの。それで、せめて高校は同じ高校に進もうって誓い合ったのよ」
「知らなかった。玲奈に双子の弟が居たなんて、しかもそれが和也くんだったなんて……」
「黙っていてゴメンね。何時もは別々に勉強してるのだけど、この前ねアイツ『試験勉強教えてくれ』って言って来たのよ」
 玲奈は学年でも10位以内に常に入る成績上位者だ。教えて貰うには都合が良い。
「アイツね、なんて言ったと思う?」
 ポカンとしているわたしに玲奈は
「真っ赤な顔をしてね『美紀ゃんに相応しい成績を上げなくてはならないから』って言ったのよ。それは必死だったわ」
 そうか、そうだったのかと心が軽くなったのと、自分の早とちりを呪った。
「だから期待しても良いと思うわよ」
 玲奈の言っていた通りに期末試験の結果が貼りだされた。わたしは、やはり下がったが思っていたよりは酷くなかった。玲奈は何時もの位置をキープ。和也くんは700人中で200番以内に入っていた。二学期の期末に比べると150番以上のUPだった。わたしは赤点を免れただけでも良しとしよう。

 3月14日月曜日、登校すると下駄箱に手紙が入っていた。開いてみると和也くんからの手紙だった。
『放課後、この前の場所に来て欲しい』
 それだけが書かれていた。その文字を見ただけで心臓が鐘を打つようにドキドキして来る。遂にこの日がやって来たのだ。あと数時間で結果が現れるのだ。玲奈は
「心配しなくても良いと思うよ。あ、でも他にも貰ったみたいだけど。そっちはどうするのしらね?」
 などと物騒な事を言って人を混乱させて喜んでいる。
 結局、試験後なので大した授業が無かったのだが全く頭に入って来なかった。私立なんかは試験休みだそうだ。羨ましいと思う。
 放課後、飛び出しそうな心臓をやっとの思いで胸にしまって、校舎の裏手に急ぐと和也くんが既に待っていた。
「ゴメン、待った?」
「いいや、大丈夫だよ。それより何か誤解させるような事をしてしまって申しわけない。俺、美紀ちゃんに告白されて嬉しくて、それなら美紀ちゃんに相応しい男にならねばと思ったんだ。だから普段は頼まないのだけれど、玲奈に勉強を見て貰ったんだ」
 和也くんは真っ赤になりながらも正直に言ってくれた。そして……
「俺も、前から美紀ちゃんのことは想っていて、本当に嬉しかったんだ。今日は何をお返ししようか考えたのだけど、あんな素晴らしい心が篭った贈り物には買ったクッキーなんかでは釣り合わないと思ってね。それならモノではなく一緒に楽しい思い出を作ろうと考えたんだ」
 そう言って和也くんが出したのは白い封筒だった。
「開けてみて」
 中を開くと有名な遊園地リゾートの1日パスポート券だった。わたしも随分前に行ったきりで暫く行っていない。
「一緒に行けないかな?」
 微笑みながらも僅かに上目遣いでわたしを見る和也くん……駄目な訳があるはずが無いじゃない。
「喜んで……」

 その後春休みに二人はリゾートに一緒に行ったのだが……
「ねえ、どうして二人のデートなのに玲奈が付いて来るの?」
「ゴメン、二人で行くと言ったら、自分の分は自分で出すから一緒に行くって利かないもので……」
「当たり前じゃない! 弟と親友が初めてのデートするのよ。それも地元を離れて……心配じゃない」
 そうなのだ。今日は何と玲奈が一緒について来ている。信じられない事実だが、まあいいかと思うことにした。だって三人なら今日は楽しくなりそうな予感もするからだ。

 その日、わたしは和也くんにリゾートのキャラクターのクッキーを買って貰いました。


作品名:ホワイトデーには 作家名:まんぼう