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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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あの日、雨に消えた背 探偵奇談10

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眷属神の使い



すっかり紅葉した木々の中を、透き通った空気が流れ込んでくる。冷たく静謐なその空気を肺にいっぱい吸い込んで、瑞(みず)は隣を歩く先輩を見た。

「晴れてよかったですね」
「うん、気持ちいいな」

伊吹(いぶき)も身体をうーんとのばし、心地よさそうに歩いている。日曜日の朝。散歩やランニングをする人々に混じり、二人は沓薙山(くつなぎやま)の山頂を目指していた。部活もない完全休養日。裏山へ行こうという約束を、ようやく果たしたわけである。

「清々しいよ。でも風はちょっと冷たい」

伊吹はそう言って、羽織っているパーカーの前を合わせた。十月も半ばになり、本格的に冬が迫っていることを感じるこの頃だ。

「先輩薄着。見てるほうが寒いです。俺マフラーだけじゃなくて、コートも着てくればよかった」
「おまえ今からそんなんでどうするの。冬なに着るんだよ」
「冬はもっとモコモコに着て完全防寒します。京都ってほんと寒いの。俺、寒さへの対策すごいから」

マフラーを手放せなくなっている瑞を笑う伊吹。首が寒いのだ。できれば顔も隠したい。若いのに、と冗談めかして言われる。

「京都ってそんな寒いのか?」
「寒いです。なんてゆーか…こう身体の芯から冷え込むっていうか、底冷えっていうか」
「こっちは日本海側だから、冬は大雪だぞ。朝練の前に雪かきしないと、弓道場入れないからな」
「うええ」

瑞がげんなり言うと、伊吹は朗らかに笑った。

(最近、ほんと遠慮なく喋るようになったなあ…)

瑞は、機嫌よく話す伊吹の話を聞きながら実感する。「何も知らない先輩」を演じていたときとは違う。本音で話すようになった。自然な関係。瑞にはそれが嬉しい。