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たらちね死神

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「……消えちゃいましたね死神さん。あのう、たまさんとおっしゃいましたけど、たま子とかたま江とか言う名前なのですか?」
 恭一郎は自分の目の前でにこにこしながら座っている少女に尋ねてみた。
「いいえ、ただ、たまって言うんです。ちなみに苗字もありません。だから一緒になれば恭一郎様の苗字がわたしの苗字になります。どうぞ宜しく願い致しますニャ」
「ニャ? って……」
「ああ、なんでも無いですニャ……あ」
 そう言いながら恭一郎に向って頭を下げると白いブラウスの胸の前が広がり豊かな谷間が覗いた。思わす目が行きそうになるのを必死で抑える。
「やはり気になるなぁ~その語尾のニャって癖なの。それとも確か死神さんが佐賀出身って言っていたから、そっちの方言なの?」
 恭一郎はあくまでも語尾が気になるのだった。たまは最初は笑っていたが、段々と辛くなって来たみたいで、それほど恭一郎の視線が痛かったのだ。
「佐賀ってさぁ~昔は鍋島藩だったよね。あそこって化け猫の伝説があったね。色々と昔は映画にもなったよね? なんか気になるんだよね。でも今の世の中、そんなこと無いか、まさかたまちゃんが、その化け猫だなんてさ、俺ね大学の頃は落研だったんだ。だからその辺詳しいんだ」
 冗談半分のつもりだった。そう本当にただのいたずら心だったのだが……たまは突然
「申し訳ありませんでした。恭一郎様を騙すつもりはなかったのですが、わたし達も子孫繁栄のために、わたしのお婿さんになってくれる方を探していたのです。それで知り合いの死神さんに相談した訳です。最近あの方そっちの方に力を入れていましたから……」
「ということは、たまちゃんは、その……もしかして……」
「はい、佐賀鍋島藩の化け猫の子孫です。化け猫なんですが代々人間界で暮らして来たので殆ど人間みたいなものです」
 殆ど人間みたいなものって、人間じゃ無いと言うことじゃないかと恭一郎は思った。それと同時に、自分が猫好きであること、このまま暮らしていても嫁さんは愚か、彼女だって出来やしないと判ってることを考えるのだった。
「あのさ、子孫繁栄って、やはりすることするの?」
「勿論です! それは人間も猫も変わりません。大丈夫です。わたしの一族は多産系ですから、いっぱい恭一郎様の子供を産んで見せます」
「いや、見せますと言われてもなぁ~」
「駄目でしょうか? 恭一郎様素敵です!」
 そんなことを言われたのは初めてだった。いま、目の前の美少女を見ていると、人間ならば何の文句もない! ならば何が問題かと恭一郎は自問自答した。答えはやはり、この“たま”なる娘が一見美少女に見えるが本当は猫で、自分が見ている姿が幻ではなかろうかということだった。
「もし、一緒になれたら、恭一郎様は文字通り、わたしのご主人様になります。毎日『ご主人様行ってらっしゃいませ』とか『お帰りなさいませご主人様』とか言えます。それを言うのが夢だったのです」
 何と言う健気さだろうか。だが、恭一郎にはそこまでやるならもうひとつだけ確認したいことがあった。
「その時の格好は?」
「勿論! エプロン姿です。エプロンだけでもいいですよ」
「じゃあ、もしかして、『猫耳』なんかは?」
「得意ですニャ」
 たまはそう言って艶やかな髪の毛の間から可愛らしい小さな三角の耳を出して見せたのだった。
 決まりだ! 恭一郎は心の中で喜びの声をあげた。全て叶った。自分の人生で、可愛くて、髪が長く、巨乳で脚が綺麗で、そして従順で、おまけに「猫耳」まである。しかも本物! これ以上望むものがあろうか。
「判った! こちらこそ宜しくお願い致します」
 恭一郎はたまに向って頭を下げた。

 それから数年後、恭一郎とたまの間には沢山の子供が生まれ、日本の少子化を食い止める一助になったのだった。めでたしめでたし。その頃、死神は

「全く、俺も気が長いよな。生まれた子供が寿命で死ぬことを待ってるんだからな。だが猫の子なら寿命はそんなに長くはないだろう。それだけが救いさ」

 二人の家の屋根の上で死神は呟くのだった。

  了
作品名:たらちね死神 作家名:まんぼう